「、跡部!」

(うるさい、)


うるさい、うるさいうるさいうるさい。
全細胞が、警鐘を鳴らす。宍戸の強い眼差しが、真実を語れと訴えている。
今逃げないと、この呪縛から開放する術を完全に見失う。そう本能が告げている。告げているというのに。
この腕を振り払えない、掴まれた部分が熱い。


「お前、さっき」

聞きたくない。

「俺に、」
「ちがう」
「何がちげーんだよ!言えよ跡部!」
「テメーは!・・・いやいい、悪かった。さっきのことは忘れろ」

その言葉に、宍戸が目を見開いた。
双眼に、情けない顔をした自分の顔が映る。

らしくない、何もかもが自分らしくない。どうしてコイツは、そうさせてくれないのだ。
何も気付かないままでいられたらよかったものを。宍戸も、そして自分自身も。


自制しがたい恋情を、部室で眠っている宍戸にぶつけた。無意識だった。
自分がしたことに気付いたときには、宍戸が腕を掴んでいた。


コイツを前にして、言い逃れなんて何の意味も為さないだろう。その眼が、それを許さない。
できることなら、抱きしめたい。もう一度、さっきみたいに口付けたい。
けれど、それと同じくらい突き放さなければいけないのだという思いが巡っている。
今この瞬間だって、目が合えば熱っぽくはじけているというのに。なにひとつとして、本当の気持ちを言葉にできない。
心の内側を、暴かれたくない。
自分は、いつからこんなにも不器用な人間になってしまったのだろうか。

相反する思いで揺れる瞳を、じっと覗き込まれる。このまま目を合わせていたら、きっとその内飲み込まれてしまう。
そう思って目を逸らそうとした刹那、視界が真っ暗になった。宍戸の空いた方の手によって、両目を伏せられ。
跡部の唇に、やわらかいものが触れていた。

「忘れてやんねえよ」

とっくに自制することをやめた宍戸が、宣戦布告とばかりに挑発的な表情を作った。
掴んでいた跡部の腕を解放し、踵を返して光の中へ溶けていく。




それが、すべての答えだった。











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0502
跡部の均衡を崩す宍戸さん









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