「ブンちゃん、そろそろこの辺にしときんしゃい」

新しい包みを開こうとするブン太のお菓子を取り上げ、向かい側の机の上に乗った大量の空のお菓子の袋を見やった。毎日毎日こんなに大量に食べておきながら、よく虫歯ひとつ出来ないものだと関心すら覚える。

「あっおい!返せよ!」
「ダメじゃ。幸村に言われとるぜよ」
「何だよ仁王。いつもなら見逃すくせに」
「我が立海テニス部の部長命令じゃからのう。止めんと真田の鉄拳制裁の刑に処すって脅されたんじゃ」
「わが身がかわいいってかあ?ったく・・・おい仁王、お前その顔やめろ」
「はて、何のことかのう?」
「お前は本当に人が悪いったらねーよ全く・・・人の不幸を笑いやがって、楽しいですって顔に書いてあるっつの」

ぶつくさ文句を垂れる丸井に、仁王は肩を竦めてみせる。と、向かい側の机の下から蹴りが飛んできた。机が揺れ、積み上げた袋からお菓子のかけらがぱらぱらとこぼれて床に落ちていく。

「あーあ、散らかした。ブンちゃんのせいじゃ」
「どうせ後で掃除するからいいんだよ。あーあ食い足りねえ食い足りねえ」
「つか脛んとこ地味に痛いナリ。暴力はいかんぜよ」
「じゃあその顔やめろって」
「プリッ」

正直なところ、真田の鉄拳制裁などというのは誇張表現だ。先ほど丸井が言ったように、普段の仁王ならブン太の暴食に口出しすることはない。
要は気まぐれ。ただ単に、構って欲しかったのである。


「おまんの、お菓子に対する欲は本当に底なしじゃ」

あればある分だけ食べてしまう、ブン太の悪い癖。加減ってものを知らないのだ。


そうやって、俺のことも食らい尽くしてくれんかのう。

口には出さなかったが、ふと、そんなことを思う。
劣情を煽るブン太が悪いのだと心の中で言い訳をして、仁王はそっと自分の唇を舐めた。


背徳的な歪曲思考






***04.22


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