「あなたの、その細やかさが好きです」 「柳生、おまんはいつも唐突じゃの」 けれど悪い気はしなかったので、それを伝えてやると柳生はゆるやかに微笑んだ。 柳生は、本当にロマンチストだ。 それはそれはストレートに、時折恥ずかしげもなくさらりと愛の言葉を紡いでいく。 その流暢な日本語で形容される自分という存在は、気高く、まるで尊い人間かのようである。柳生にかかれば、ペテン師である自分も崇高な人間に様変わりするというわけだ。 もちろん、仁王自身が柳生のそれを鵜呑みにすることはこれまで一度たりともなかったが(そんな出来た人間でありたいと思ったこともない)、それと同時に夢見がちな柳生の言葉を否定したこともなかった。これまで、一度たりとも。 それには、理由があった。 仁王は、柳生の滑らかに動く口唇を眺めるのが好きであり、それが自分のためだけに用意されたものであるかのように感じられて、存外心地好かったのである。 肯定も否定もせず、ただ受け入れる。 そうすれば、柳生は与える喜びを得る。そして仁王もまた、そんな柳生の姿に満足する。 敢えて甘受することが、二人の関係をより円滑なものにしていく。その実、などというのはこの際とるに足らないことである。柳生のそれは、純粋な気持ちから来るものに違いないのだから。 仁王もまた、唯一無二の存在である柳生のことをいとおしく思っていることに変わりない。余計なことを考えるのは、野暮というものだ。 そう思い、またも思考を巡らせることを放棄した仁王は、この昼下がりの甘ったるい空間に身を任せる術を身に付けたのだった。 独占契約 *** 噛み合ってないようで噛み合っている二人のおはなし 04.22 |