「タケ……ル?!」


驚いて、顔を上げる亜子。

おのれの唇を舌で舐めながら、亜子の反応を観察しているようだ。


「今日は俺、朝早かったからキスしてなかっただろ?」

「そ……だけど、ここではダメ!」


「いいじゃん。ケチ」


もう一度キスをしようと、タケルがカウンターに身を乗り出したそのとき、


「前重!!いつまで待たせんだ!」


自動ドアが閉まっているというのに、外から本田のバカでかい声が聞こえてきた。


「ヤベッ!じゃーな亜子。ちゃんと戸締まりしとけよ?」


精算を終え、慌てて袋を掴んだタケル。


不意打ちのキスに呆けていた亜子は、タケルを呼び止めた。


「あ、待って!タケル」

カウンターからわざわざ出てきて、振り返るタケルの手に優しく触れた亜子。


「はい、これサービス。いってらっしゃい」


手渡されたのは、袋に詰め込まれた大量のパン。


優しく微笑む亜子に、タケルの胸が高鳴った。



「おー。いってくる……」


そう言った頬は、微かに赤みがかっていた。




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