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ただ、その場所には何もなくて……2つの鼓動だけが重なっていた。
「タケル……」
呟くたびに、タケルは亜子にキスを落とす。
ーーまだ、信じられないーー
そんな亜子の内心を察したかのように、何度も強く抱きしめてくれる。
ーー愛しい人に大怪我を負わせた。あの日、タケルの体を撃ち抜いた私なんか許してくれない……もう二度と会えないんだと思っていたのに。
彼が目の前にいる。
その手はとても優しく、亜子を包み込んで離さなかった。
椿が地面に落ちていた。
ただ、それだけが記憶に残っている。
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