甘く胸を貫かれて漂う私を直ちに救助せよ | ナノ


「…何でお前がいんの?」

俺の目の前で優雅に寛いでいる男、高杉はワイングラスを左右に傾けながら、クツクツと笑った。
ここは歌舞伎町にあるホストクラブ、高天原だ。
俺はわけあって、ここでバイトをしている。

「突っ立ってねぇで座れや」

高杉が俺の腕を引き隣に座らせる。
幕府からのおたずね者が、堂々と男ばかりのクラブに来るなんて信じられない話だ。
高杉なりには派手な色を抑えた着物を着ているようだが、容姿端麗なお前は存在自体、目立ちすぎである。
酌せ、と言わんばかりにグラスを突きつけてくるので、俺は嫌々ドンペリを注いでやった。

「てめぇ、何でこんな所で働いてやがる」

「金がないからに決まってんだろ」

「ふぅん…金ねぇ…」

つまらなそうな顔で高杉は適当に相槌を打った。
元々、金に困った事のない高杉にとっては些細な話だろう。

「なぁ、銀時ィ」
「あ?何だよ?」

高杉が俺の肩を抱く。
縮められる距離に俺の心臓は早鐘を打つ。
わざと甘い吐息を耳に吹きかけられて不覚にも、びくんと身体が震えた。
駄目だ、抵抗できない。

「…銀時ィ」
「やめっ…呼ぶなっ!」

俺はこれ以上流されまいと、必死になって耳を塞いだ。
高杉の低くて甘い声は苦手だ。
俺の抵抗心をへし折るだけではなく、その気にさせてしまうのだから。

「見せつけてやれよ、」
「は…?」

高杉が喰らいつくように唇を重ねてきた。
がちん、と歯が当たっても高杉は気にしなくて。
鈍い痛みが前歯に広がる。
ついでに言うと酒と煙草の味が咥内入り込んできた。
熱い舌が絡み合う。


「客の事なんか考えるんじゃねぇぜ?今は俺だけ見てろ」

――不覚だ。
俺とした事が、高杉の台詞にときめくなんて。
真っ直ぐに俺を見つめてくる瞳が恋しい。
今すぐ、こいつが欲しいと思うなんて、俺もイカれてやがる。

「高杉よ…」
「何だ?」
「俺、我慢できねぇ…」

俺がそう言うと、ふ、と高杉が笑った気がした。
上等じゃねぇか、高杉は俺を無理矢理立たせ、店を出ていく。
行く途中、何人かのホストが俺を凝視していた。
仕事すっぽかして私情に走るなんて、明日にはまた新しい仕事を探さなきゃな、と思いながらも俺は必死に高杉の後ろをついて歩いた。


甘く胸を貫かれて漂う私を直ちに救助せよ
title よをう






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