学生高銀
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もうこれでこの問答は何回目だろうか。いい加減うんざりしていた。

「だーかーら、嫌だってば」
「何で」
「何でってそんなの、無理だからに決まってるだろ!」

怒鳴る俺に高杉はまた「何で無理なんだ?」とか聞き返してくる。それじゃあやりとりの繰り返しだ。俺はあきれてため息を吐く。
幼なじみの高杉晋助という男は強情で負けず嫌いで俺様で、自分がこうと決めたらこれで当たり前なんだというほどの自信家だった。でもだからって、

「俺にとってお前はただの幼なじみ!それ以上でも以下でもない!!」

男相手に好きだと言われたところで、はいわたしもですだなんて返すと思ったのだろうか。

「…ふーん」

高杉は何かを考えるように適当な相槌を打ち、それからにやりと笑って、


「まあいいさ。俺は本気でテメェを落とすからな」


そう言った高杉の瞳はいつになく愉しそうで――そして真剣だった。

高杉に告白をされたのは1週間ほど前。いつもとかわりないはずだった下校時にさらりと言われた。一瞬なにを言われたのかわからなくなるくらい自然に放つものだから、冗談と笑いとばすこともかと言って本気にとることも躊躇われた。そんな狼狽する俺に高杉はさらに言う。追い撃ちをかけるように。
お前が好きなんだ、と。
初めて知る高杉の本音に心臓が跳ねたのは嘘じゃない。けれど――俺は断った。お前はただの友達だと言って。だってそれが一番いい。高杉のことは嫌いじゃない、むしろ好きだと思う。そうでなければこんな長い間一緒にいれるはずがない。けど、だからこそ。


「……銀時?聞いてんのか」

高杉の声にハッとして顔をあげると、眉をよせて訝しげにこちらをみる男と目があう。

「あ…なに?高杉」
「…具合でも悪いのかよ」
「いや全然。眠いだけ」
「ふーん。…まあいい。これを見ろ」
「?なにこれ」

目の前に出されたのは一枚のチラシらしきもの。受けとって内容を見てみると、それは駅前にある有名店のケーキバイキングの広告だった。

「ケーキバイキング!」

自他共に認める甘党の俺は目を光らせた。ケーキバイキング。それは多種多様のケーキを一定の値段で食べ放題という素晴らしいフェアである。

「今日授業は午前中までだろ?帰りに寄って行かね?」

高杉はものすごくいい提案をしてきた。確かに今日は先生たちの会議だか何だで午後の授業はカットされている。喜んで頷こうと思った瞬間、はたと気がつく。

(…これは高杉の言う、俺を『落とす』策略なのか?)

だとしたら断りたい。はやくあきらめさせて、ただの友人に戻したい俺としてはこの誘いは断るべきなのかもしれない、けど。

(ケーキバイキング……)

チラシにのっている写真を眺めているだけで涎がでてきてしまいそうなほど、美味しそうなイチゴショートケーキ、ガトーショコラ、シフォンケーキ、モンブラン……
気がつけば俺は頷いていた。

「じゃあ決まりな」

でも高杉の満面の笑みを見たら、まあいいか、と思ってしまった。





***





まだ太陽が真上にある時間。学校が終わり駅前の店にきた俺たちは、二人用の席に向かい合って座っていた。

「胸焼けしそう…」

もう何個目かもわからないケーキを頬張る俺を見ながら高杉は唸るようにそう口にする。

「そういえばお前甘いのあんまり得意じゃなかったじゃん。なんで来たわけ」
「そんなのお前の喜ぶ顔が見たかったからに決まってるだろ」
「へぇー………っえ?!」

何か今すごいこと言われた気がする。思わず見ると高杉の瞳はこちらを真っすぐ見ていた。

「健気だろ?」

高杉はからかうように言った。いたたまれなくなって俺は目をそらし、おかわりのために席を立つ。そしてやつから見えない位置に立つと頭を抱えた。

(…なんでアイツあんなさらっと恥ずかしいことを…ッ)

恋愛って惚れたほうが負けなんじゃなかったっけ?なんで俺がこんな翻弄されてんだよ。熱くなってしまった頬を押さえながらケーキを皿に盛っていく。

「…ハァ……しっかりしろ、俺!」

意を決して高杉のいるテーブルに向かった。荒っぽく腰を下ろすとケーキにフォークをさす。さすが有名店なだけあってどのケーキもうまいが、俺のお気に入りはこのイチゴシフォンケーキだった。

「…あ。銀時」
「ん?」

呼ばれたので顔を上げたら、高杉の指先がこちらに伸びていた。

「クリーム。ついてる」

そして人差し指が唇のはしを拭って、それから、高杉は自分の指についたクリームを舐めやがったのだ。

「――なっ??!!」

ぶわわ、と顔に熱が集まったのがわかった。高杉はそんな俺を見てにやりと笑う。

「顔、真っ赤だけど」
「だっ、おまっ、……ッベタなことすんな!!」
「指が嫌なら、舌で取って欲しかったのか?」
「違っ?!んなわけ…ッ」
「そんな顔すんなよ。我慢できなくなんだろ」
「……ッ」

自分がどんな顔をしているのかなんてわからないし知りたくもない。ただ顔が真っ赤なことだけはわかる。

「っ…お前さ、もうやめてくれない?俺お前と付き合う気ないから」
「絶対その気にさせるから大丈夫」
「大丈夫じゃねぇよ!」
「つーか、そろそろ素直になれば?」

高杉の言葉に絶句した。素直になる?どういう意味だそれ。


「好き」


――高杉はまた、そう俺に告白する。脈絡もタイミングも空気もこいつにはどうだっていいようだ。
でも俺は、お前とのこの関係を壊したくないのだ。だから首を振るのに、高杉はまた俺に好きだと口にする。

「やめろって……」
「何で」
「だから…っ」

これじゃあ冒頭の掛け合いの繰り返しだ。俺は言葉を詰まらせる。


「…まあしばらくは、俺に口説かれてろよ」


高杉は笑いながらそう言い、俺の皿からケーキを一口フォークにさすと俺の唇に押し当ててきた。

「んぐ……」
「絶対落としてやるから」

高杉は負けず嫌いで俺様で自信家で、俺が何を言ったってそう簡単には諦めないのだろう。悔しい。言い返すべく押し当てられているケーキを口に含む。


「絶対落ちてやらねェ!」


睨みつけたら高杉は嬉しそうに微笑む。高杉のフォークから食べたケーキは、さっきよりもなんだか甘い気がして。
でも――なんだかんだで高杉を突き放せない俺が、一番甘いのかもしれない。


砂糖で固めた愛をどうぞ




うぎゃああああああああっ
高杉が坂田を押しまくり…なんてときめくのだろうか!
クリームを舐めましたよ高杉さんが。
霧咲は大変幸せであります。
ありがとうございました!



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