小舟の宵ごしらえ
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お妙さんと万事屋の二人を家まで送るように、ということと、他にも用事を山崎に頼めば、奴はなんと不遜にもちゃんと仲直りしてくださいねと偉そうに俺に諭した。別に総悟とは喧嘩をしたわけじゃない。が、このまま泣かせておくのもどうも良心が痛む。

客間から負ぶわれて出てきた万事屋は俺達の会話を全て内側で聞いていたのか、呆れた目で俺を見た。……そもそもあの総悟が、俺が怪我したくらいで泣くだなんて。

俺がお妙さんを送っていくと自信満々に挙手する近藤さんは置いといて、俺は総悟以外の人間にしっし、と手で払った。お妙さんと山崎は楽しそうに微笑み、近藤さんは総悟の髪をわしゃわしゃと撫で……まあ万事屋は先程から全く表情は変わっていないが、皆一様に去っていく。廊下に二人きりになったところで、俺は彼の背を見て溜息をついた。

彼はこれほど幼かったろうか。これほど、彼の背は小さく見えただろうか。

「総悟、返事はいらないがよく聞け」
「……」
「俺は明日、奴らの船に乗り込んで紅桜を回収する」

総悟は背を俺に向けたまま、俺の先の言葉に反応して肩を震わせてえ、と声を洩らした。悪意を向けられているより好意を持たれているほうが勿論良いのだが、彼がそれほどしおらしいと或る意味で末恐ろしいというものだ。明日は槍でも降るに違いない。

「今は俺一人で行くつもりだが、しかし一人で先陣を斬るというのも心許ない。去るものは追わないが、来るものは拒まない。……ま、言うのも野暮ってもんだが」
 
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