兄弟は手足たり
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万事屋が元気に寝ているという客間の前までは来たのだが、結局俺は顔を出さなかった。俺がのこのこ顔を出したら治りそうな傷もまた開いてしまうんじゃないかと思ってのことだ。あと奴と絡むのが今の下降気味なテンションだと非常に面倒臭い。とりあえず不自然ではないように一度自室に戻り怪我の手当てだけして総悟の元に何食わぬ顔で戻る。

何故か眠そうなのに意地でも寝ようとしない総悟に呆れつつも、怪我のせいで仕事をする気にもなれなかったので居間で録画していた再放送の相棒をみながらかなりまったりしていた中に、仕事を抜け出して来たというお妙さんが山崎に連れられて来たのは明朝三時過ぎのことだった。口ではあんな人心配してないと言いながらも態度では丸分かりでそこが可愛らしいところだ。

ふと、客間の前まで案内したところで何かが慎重に、しかし素早くこちらに走ってくる様子が確認できた。最低限の明かりしか点けていないので「何かが動いている」程度にしか分からないのだが若干の悪寒を感じる。

「お妙さァァァん! どうしたんですかこんなむさ苦しいところへようこそいらっしゃいましたなァ!」
「近藤さんウェイト」
「局長、今かなりシリアスなんです」
「かなり空気読めてねェよ」
「えっそんなに責めるの? 本当にこんな真夜中にどうして……というかトシ、その手どうしたんだ?」

近藤さんマジで空気読めや。

おそらく山崎は、俺が総悟に対して手の傷を隠していたのを気付いてたのだろう。だから近藤さんの言葉にも動揺することも無かった。けれど俺が本当に傷を隠したかった相手、総悟は近藤さんの言葉に俺の手をふと見て、巻かれた包帯が、点々と赤く染まっているのに気付くなりどうしてか目を見開いて、そして顔を伏せた。
 
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