口で貶して心でほめる
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本当は清潔な包帯が一番なのだが仕方が無い。適当な布を千切って、空いている方の手と口も使いながら手にぐるぐると巻いて結んだ。流石に不恰好で、しかもすぐに血が滲んで気持ち悪い。

兎に角屯所に戻り、引き戸を開ければ同じタイミングで向こうからも誰かがこの扉を開いた。しかも余程急いでいるのか勢い良く俺の身体にぶつかる。若干ふらついて、誰だと確認する暇も無く、なぜか「あ!」とそいつは俺の顔を見て叫んだ。

「土方さん! ……やっと帰ってきたんですかィ」
「あーまあな。そういや万事屋はどうした」
「旦那なら客間で元気に寝てまさァ」

総悟は焦った様子で俺を呼んだ後、我に返ったように若干わざとらしく顔を顰めていた。総悟が客間のあたりをくい、と右手の親指で示して言うと、俺もふうんとあまり気の無い返事をした。どうやらそれほど容体は悪くないようだ。

そういえばカッコつけたつもりは全く無いが、この怪我を知られたら総悟もとやかく言いそうだ。今のところ万事屋の血のにおいのお陰と、不自然ではないくらいに総悟の視界から怪我をしている手を隠しているから気付かれていないが。

「ま、このままアイツをここに置いておくわけにもいかねェからな。そうだな、眼鏡の姉でも呼んで連れて帰らせろ。……聞いてたな、山崎」

正直最後の山崎への呼びかけは冗談半分だったのだが、実際呼んでみるといとも自然に奴は天井裏から顔を出してはいよっと応えた。お前マジで俺のストーカーする前に仕事をしてくれ。
 
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