窮寇に迫ること勿れ
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「だが   ちょおっと遅いなァ」

言うや否や、岡田似蔵は俺の首周りを目掛けて一閃した。構えていた刀で辛うじて防いでかわし、右腕の根元を斬りつけたが、彼が再び紅桜を薙ぐと刀を握る手元にぴりりと少しの痺れが襲う。痺れた箇所から、次第に刀を握っているつもりなのにぬめりが生じて、それで漸く自分の置かれた状況を把握した俺は「やってしまった」と甚く痛感した。俺の血を、紅桜が吸ったのだ。

「ふ、くふふ、はははははッ! これでお前の力も紅桜に昇華された!」

楽しくない。全く持って微塵も楽しさが感じられない。岡田の笑い声がやけに耳について思わず顔を顰めるが、それすらも彼の享楽をそそるだけだ。

俺は馬鹿か。相手にとって今の俺は、ミイラ取りがミイラになった挙句わざわざ鴨がネギを背負ってきたようなものだ。どうする。この状況からどうやって形成を逆転すればいいんだ。自分のあまりの馬鹿さに絶望しか起きない。



結局、岡田似蔵は俺の血を得て満足したのか知らないが、突如空に現れた仲間のヘリによって俺の前から姿を消した。ぶろろろろろとけたたましい音を立てて去る奴らを俺は地上から眺めることしか出来ない。歯噛みは流石にしないが、目の前に刀を突きつけていたのに俺としたことが逃げられてしまった。

というかもうそんなことより右手の甲斬られただけなのにやたら血が出てとても痛いんだが。
 
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