※誕生日祝ってないですすみませんんん明らかにタイトル詐欺です本当にありがとうございます


入院初期に蓮二が持ってきてくれたハンドグリッパーはもうその重みすらも感じられないほどに、病院の屋上で密やかに育てていた花も俺ではなく俺のリハビリついでに看護師が水をあげている。意地を張らずにあのとき、違和感を感じたときに言っていれば今このような姿になりはしなかったのだろう。

俺は恐れている。この冬を越せないこと、彼らから少しずつ笑顔が失われつつあること。そして何より、既にラケットを握れない俺を彼らが見捨てるかもしれない、こと。


Wait.Don't place,please.


今年はいつ桜が咲くのだろう。ここから見ることが出来るのだろうか。

去年は、立海のテニスコートの脇にそびえる桜の大樹があったのだ。邪魔だとか言って伐採してしまう案も過去に何度か出されたようなのだが、そんなご無体なことをしては神様の罰が当たるんですよ、とおじいちゃん先生は真面目な声で語っていた。そうだ、俺は罰が当たったのか。今まで多くの人を苦しめてきた罪が、今になってようやく俺の身体に還ってきたたのか。

「……手術、どうしよう」

失敗する可能性の方が高い。けれど、手術をしなければいずれテニスも、運が悪かったら身体さえも動かせなくなるかもしれない。既に決まっているようなものだった。しなければ、すぐに死ぬ運命なんだ。



この病院の敷地内に桜は咲いていないらしい。梅ならあるけど、と看護師さんに言われるがそれじゃ意味が無いんだ。とびきり綺麗な桜、学校のやつと同じくらいに。

「だから撮ってきて欲しいんだけど」
「ああそれはいいが……何だ突然」
「いやそれがね、ここから桜は見えないんだって」

だから、写真に収めてきてよ。カメラを渡すと、真田は分かっているんだかいないんだか分からない声音でああ、と頷く。そういえば真田ってカメラの使い方分かるんだろうか。……流石にあの顔でも現代っ子だもんな、真田は。まあうん、大丈夫だろ。



真田に貸したはずのデジタルカメラは、何故か蓮二の手から返って来た。プリントアウトもしてくれたらしく、ファンシーな封筒に(これが見事に似合っていないんだ)も一緒に手渡される。

「…あれ、分厚いね」
「ああ、弦一郎が写真を撮っていたら赤也も撮りたいって言ってな。どうせなら皆で順番に撮ろうということになった。だから頼まれていた桜以外も入っている。…お前の大事にしていた屋上の花壇もな」

順番に捲っていくと、その花壇の写真が数枚並んでいた。瞬間あれ、と首をかしげた。誰に世話を頼んだつもりも無いのに、花壇が綺麗に整っているのだから。

「そういえば、誰が花壇を?」
「言っていなかったか? まあそうだな、テニス部有志とでも言っておけば良いのだろうか」
「蓮二も?」
「勿論。俺は花の種類を選んだ」
「ふふ、流石参謀。良い趣味してるよ」

捲るうちに最後の一枚まで辿り着く。最後の写真は水色のクロッカスと、桜の花びらが写りこんでいる。意味ありげに蓮二が笑うので花言葉は何だっただろうかと記憶を辿って、はたと俺は顔を上げた。

「…これ、誰が」
「テニス部有志だ」



***


わざわざ誕生日当日に上げたのに祝ってない謎
愛だけはあるんですよこんなに一杯。誕生日おめでとうございます幸村君!これからも素敵で格好いい君でいてね愛してる!

クロッカス:あなたを待っています
水色のクロッカス:心配ながら信じる
まあ即ちお前が悩んでることなんてスケスケだぜってことですね
  comment??
『三月五日に上げたんだからきっとこれは誕生日を祝ってるんだ』2013/03/05 Tue 19:04
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