城の崎にて/志賀直哉
模倣作品につき同じまたは類似した描写があります


 だんだんと薄暗くなってくるのを病院の一室から眺める。いつもの代わり映えしない風景の中に黒い小さなものがいた。いもりだ。窓の縁に寝そべっていた彼は、窓を開けると俊敏に動いていずこかへ去ってしまった。俺も一緒に連れて行ってくれないのか。

 よそ見していたら、真田のボールを打ち損ない、背後のフェンスに大きな音を立ててぶつかった。呆れる真田に苦笑いで返すと、ボールを拾おうとしゃがみ込んで気付いた。いもりが死んでいる。
 ボールに潰されて死を迎えたのか。果たしてこれは、俺が殺したのか真田が殺したのか。妙に惹き付けられて暫く眺めていると、いつの間に真田は近くまで寄り死んだいもりを一緒に眺めていた。虫を殺すのは日常的に行われる普遍的な行為の癖に、このいもりを偶然殺してしまったのは妙な嫌な気がさした。尾を掴んで拾い上げ手の上に載せると黙ってコートの外へ行こうとするものだから真田はおい、と呼んで俺の肩を掴む。
 
 「埋めに行くんだ。手伝ってくれるかい?」

 花壇に埋めているあいだ、かわいそうだなと想うよ。そう呟くと真田は肯定する返事をみせた。いもりにとっては不意な死だっただろう。彼は偶然死んで、俺は偶然に死ななかった。そういう運命だったのだと納得させようとした。だけれど、一歩間違えれば俺が埋められる側で、いもりはそれを眺めていたのかもしれなかったのだ。

 もう日は暮れようとしている。最早誰が周りに居るのか、俺は一人なのかも分からない。ただ花壇の前で蹲るばかりだった。
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『城の崎にてパロ』2013/03/03 Sun 05:06
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