*山南さんが中々出てこないので捏造
「総悟君が介錯して下さい」
一生に一度のお願いです、と笑って、山南は残酷にもそう言ったのを覚えている。全隊士の目の前で、言われた方はたまったもんじゃねぇと辛そうに総悟は怒鳴った。そりゃそうだ。兄のように慕っていた人を介錯するなんて碌なことじゃない。奴の癇癪は元々だが、今回は俺も少し同情せざるを得ない。
不意に山南は、俺の方を見た。
「総悟君を、よろしくお願いします」

今更何を宜しくされるのだろうと俺は山南が死ぬその日までずっと考えていた。俺と違う意味で、何を考えているのか分からない人だったが、今回ばかりは本当に答えは出なかった。今も、分かるのは片鱗のみ。
「総悟君、いきますよ」
「……へィ」
総悟にそのような顔をさせるならば、俺がすると言えばよかったのだろうか。殺すことを躊躇うことの無い総悟が、珍しく表情が無かった。近藤さんも同じように気を張ったような顔をしていて。
その瞬間まで、俺一人だけ、いつもと同じだった。

特に交流は無かったが、局長や副長、そして何より沖田隊長は思うところあるのだろうな、と特に何も考えずにその儀に出席したが、その斬られる瞬間、それは副長が一滴涙を流す場面、何より動かない彼の表情が珍しく動くのを見て思わず息を呑んだ。
「副長、泣いてるんですか」
「……今泣きたいのは俺じゃなくて、アイツの方だろ」
そういって笑ったときの、あの物悲しさと言ったら。

俺は、皆にあんな顔をさせたくて局中法度を定めたのでは無い、と思う。作ったときはそんなこと微塵も考えもしなかった。俺が定めたものの所為で、今までに失われた命は幾つも、そして今さっきも一人。
如何足掻いても動きやしない自分の表情が恨めしい。いっそのこと、思い切り泣いてしまいたい気分だった。
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『旅路捏造小噺』2012/11/18 Sun 18:49
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