畳の上で座禅を組む。姿勢を正し、目を閉じると様々なものを感じられた。音楽室から聞こえてくるトランペットの音、男子2人の間で交わされるボケとツッコミの応酬、い草のにおい。

「……ねえ銀さん」

目を閉じたまま隣に座る男子生徒に声をかける。大柄な彼は低い声で「なんや錦那はん」と渋く答えた。

「私がこの部に入った理由はな、入部した時点で即部長、もしくは副部長って聞いたからやねん」

「がっかりした?」と訊いてみるが、銀さんは「入ってくれるだけいいんや」とまたも渋く答えた。

「それより座禅中や、集中し」

私は言われた通りに口を閉ざす。熊蝉の声が聞こえてきてああ夏だなあ、と改めて思った。

部活が終わると、帰り支度も早々に私はテニスコートへと向かった。
銀さんの話によると白石くんはテニス部らしいから、急いで行けば白石くんの勇姿を拝めるかもうふっうふっうふふふふふ。

「うわ何にやけとん」
「……なんや恵か、ほっといて、忙しいねん」

フェンスに張り付き、コートを駆け回る部員を眺める。
ああ、あれ同じクラスの堀内さんだ、喋ったことないけど。あ、あれ米田さんであれは飯星さん。どちらも違うクラスだけど美人で有名だから知ってる。んー白石くんいないなあ。

「なんか女子多すぎひん……?」
「やってこれ女テニやもん」
「おかしいな……ああ?」
「うわガラ悪」

思わずドスの効いた低い声が出てしまった。慌てて口を噤む。
今恵女テニって言った? 女テニって、女子テニス部?

「じゃあ白石くんは?」
「ん、白石? 男テニやん」

ああ、そうや。男子やったね。私の所属する陸上部って男女一緒に練習するから、そういうことは忘れてしまいがちだ。そうか、分かれて練習するのか。そうかそうか。なるほどね。
納得し、頷くとその拍子にテニスラケットが目に入った。
それは恵が持っている物だった。改めて彼女の格好を見る。黄色地のウェアに半ズボン、縛った黒髪からは汗が滴っていた。

「え、恵なんそれテニス部のコスプレ?」

恵は面食らったようにこちらを見つめた。口を一度引き結んで、答える。

「いや、私テニス部なんやけど」

え、と思わず声が出た。


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