あやめ

結局いつ日本に帰ってくるの?


毎日のようにスマホに現れるその質問にそれとなく答え続けてる。親たちはどうせ帰っても夏休みなんだから夏休みが終わるまでこっちにいればいいと帰国を促すこともしないから帰るかどうかはわたし次第だったりする。今後のことを決めてから帰りたい。じゃないと揺れて揺れて手が付けられなくなっちゃう。だけど、時間をかけたからって答えが出るの?

「出るわけないんだよなあ〜〜」

将来、おばあちゃんの力になれるような仕事がしたい。この前おばあちゃんに相談したら、ケラケラと笑われた。「紗希乃がやりたいことをやってから、頼むとするよ」ということはどっちにいようが構わないということ。進んだ先で頼めることを頼むってことなんだろう。あー……ますますどっちに決定するか判断に迷う展開で頭がくらくらしてきた。あーもうスマホうるさい。ブンブン鳴りっぱなし……って、電話か。ベッドにうつ伏せに伏せたまま、電話に出た。

「出るのおせーよ」
「……けんじくん」
「おい待て切るな」
「まだ切ってない!」

まるでわたしの行動を監視してるかのように賢二くんの声がとんでくる。ほんとに切ろうとしてたこと、なんで気付いたの?!

「……もうこっちの学校終わるんだけど」
「海明ははやいもんね」
「松陽ももうすぐだろーが」

「いつ日本に帰ってくんの」

やけに神妙な賢二くんの声が耳をゆらす。うぅ……と間抜けな唸り声が出た。口を開いては閉じて繰り返し。電話口じゃ何も伝わらないっていうのにね。

「わかんない」
「次の学期は日本だろ?」
「それはそう」
「その後は?」
「それも、わかんない」

てっきり、はあ?とか何言ってんだって言われると思ったのに。賢二くんはいたって静かに応答してきた。

「何がわからないって?」
「……色々と思うところがあって」
「勉強する環境がいいからとか」
「確かに環境は整ってるよね。めちゃくちゃ勉強しやすいし質問とかしやすいし」
「急にスラスラ喋るな勉強馬鹿」
「だって勉強なんてどうでもいいんだもん」
「勉強ばっかりのお前が珍しいな」
「残念でしたー。実はわたし、勉強ばっかのがり勉野郎ではなかったんでーす」

こっちに来ていろいろ気付けたよ。泣かないって約束した通りこっちじゃ泣いてなんかいなかった。だけど、泣きたくなるくらい苦しいのは治せなかったんだ。優柔不断だってバカにしてくれてもいいから、あとちょっとだけ逃げさせて。

「だからさあ、ちゃんと整理するまで帰りたくないの」

ごめんね、賢二くん。
ケリを付けられるように頑張るから。

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