うららか

画像を受信しました。メッセージアプリのそんな通知に溜息をつきながら画像を表示する。ついにここまできたか、と頭を抱えていればクラスメイトに心配された。勉強のしすぎよ、だなんて聞こえない聞こえない。改めて送られてきた画像。もとい、チラシを直接撮影した写真を眺めた。

『春を満喫!京都・奈良おススメパックツアー』

ポップな見出しのそれは確かにまあお値段的には安いし、フリータイムも結構あって選択肢の幅広い良いツアーだと思う。思うけど、

「行かないって言ってるじゃん……!」

3年生になってからのクラス替えでわたしはまさかの夏目さんと同じクラスになったそう。とはいえ籍はあっても本人はこっちにいる。「どうしてまだアメリカにいるんですかああ」と泣きつかれても困ってしまう。日本に帰ってからの残りの期間の方が長いんだから、となだめるとそれまで耐えると約束してくれた。…までは良かったんだけどなあ。

『これなら松陽の自由行動の時間とほぼ一緒ですし、ホテルも選べるので同じホテルを指定すればいけます!』
『だから行けないってばー』
『弾丸ツアーですし!短いし!』
『まず今わたしがいるのは国外だと言うことを忘れないで夏目さん』

修学旅行の自由行動がクラス別だと判明してから毎日のように夏目さんの京都プレゼンが続いてる。最初は「自家用ジェットでくれば早いのでは?!」なんて非現実的なことを言ってた夏目さんも週単位でプレゼンを重ねるうちに内容が詳細になってきて、今日に至っては旅行会社まで持ち出し始める始末。そのうち日本へのフライト時間と空席まで調べてくるんだろうなあ。その熱意をぜひ勉強に使うべきだよ夏目さん。

『いっそのこといかにクラス行動から逃れるかを考えてみたら?』
『そんなの同時進行で考えてますよっ』

これは万が一わたしが行ったとしても一緒に抜けましょうって言われるオチだなきっと。戻ってから夏目さんに振り回される日常を考えるのが少し楽しかったりするのは秘密にしておく。その勢いで修学旅行に引きずり込まれちゃいそうだもんね。

どうやったら本気で諦めてくれるかなあ、と考えていたところにいい知らせが届いた。

『再来週の週末にお姉さまの所へお邪魔しますね!』
『伊代ちゃん、その話詳しく』
『流石に修学旅行について行けないし、何日も下衆共とだけ遊ぶなんて伊代つまんないんですもの』

だからわたしのところに遊びにくると。学校休んで来るつもりかこの子は。うちのおばあちゃんに根回し済みなあたり用意周到だなあ。おばさまと二人で来るみたいだ。……賢二くんは来ないのか。なーんてね。賢二くんと伊代ちゃんが何だかんだ仲良しだからと言って一緒に旅行までは流石に嫌だよね。うん。そうだそうだ。学校休まなきゃだし。

と、いう訳で修学旅行はやっぱりいけないや。ごめんね夏目さん。諦めてクラス行動頑張って下さいな。


*

「ヤマケンくん、貴方今年は夏期講習どうするの」
「受けるつもりだけど」
「じゃあ、そっちも初回の授業はパスして二回目から参加するのね」
「は?」
「再来週の週末は家族で旅行に行くと伊代さんが言っていたけれど」
「待て待て。夏期講習なのに早いだろ!」
「何を言ってるの。冬期講習の時に知らせがあったはず。受験生の夏期講習は開始期日が5月だって」
「すっかり忘れてた」
「どのみちヤマケンくんも初日にいないなら仕方がない。もしいるなら課題をわたしの分も貰ってもらおうと思ったのだけど」
「松陽は再来週が修学旅行か」
「そう。わたしたちがいないのが耐えられないから逃避行すると伊代さんが言っていた」
「オレは行かないけど」
「行かないの?家族旅行だときいたけど」
「親父も仕事だし、お袋と伊代と三人で旅行なんて嫌だね」
「それじゃ、わたしの分の課題を貰っておいてくれる?」
「しょうがねーな」
「お土産は期待してていい」
「アンタが張りきると不安しかないんだが」



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