さくら

桜がひらひら舞い落ちる。通学中に花見ができるなんて思わなかった、1年前のわたしはそう喜んでいたっけ。実際はそんな綺麗なものじゃなかったんだけどね。虫は落ちてくるし、花びらを全身に受け止めなければならないから。咲いてるうちは綺麗だけど、散ってしまったらただのゴミじゃないの。友達に愚痴ると決まって、風情が無いだの心が豊かじゃないだのと言われる始末。うーん、それとこれとは話が違う気がするんだけどなあ。


「紗希乃お姉さまっ」


2年生の階をスマホをいじりながら歩いていると、聞き慣れた声に呼び止められた。階段の踊り場から笑顔でこちらを見上げているのは後輩の女の子だった。


「伊代ちゃん……ここじゃお姉さまじゃないんだってばー……」
「ごめんなさい!ずっと長い間そう呼んでいたから抜けなくてっ…!」
「あー、ウン。人が居ないときは別にいいんだけどね?わたしの友達に聞かれたらネタにされていじられちゃうからさ」
「気を付けますね紗希乃先輩!」


頭がもげそうなくらいブンブン頷くから具合悪くならないかすごく気になる。伊代ちゃん頭大丈夫かな。少し心配だったけど笑顔のままだからきっと大丈夫ね。階段を上ってわたしの隣りにやって来た伊予ちゃん。中学の頃からの知り合いだけど、こんなに背が高かったっけ。スラっとしてて羨ましいなあ。


「伊代ちゃんは新しい友達できた?」
「友達…?」

えっ、何ソレ食べ物ですか?まるでそう言っているようなポカンとした顔の伊予ちゃんにまさか……と額に冷や汗が伝った。

「もしかして、友達いないの?」
「必要かどうかで言えばいりません!代わりに仲良しの先輩たちがいます!」
「先輩?」
「はい!ハル先輩に、あさ子先輩。ササヤン先輩に……あと、シズク先輩!」

嬉しそうに指折り数える伊代ちゃんに少し頭を抱えたくなった。そう言えば、小さい頃から年上とばかり遊んでいた気がする。お姉さまって言って色んな子に可愛がられてたなあ。そうそう、眼帯と包帯つけた前世は魅朱蘭の山口伊予ちゃん…!ここまで中二病全開の子は天然記念物並みだとわたしのクラスメイトは微笑ましく見守っていました。卒業できたみたいで何よりですほんと。


「皆さん2年生なので、もしかすれば紗希乃先輩のお知り合いかもしれません」
「うーん、どうだろうね」


誰も頼る相手がいないよりは楽しめる相手がいるのは悪くないのかも。笑顔でハル先輩とやらの良い所を語る伊代ちゃんに適当に相槌を打ちながら、二人で歩き始める。このままだと2年の教室に着いてしまうけどいいのかな。その仲良しの子たちに会いに来たのかな。


「もう!紗希乃先輩ったら聞いてますか!」
「ゴメン、聞いてなかった」
「も〜!」


伊代さびしいです!そう言う彼女に苦笑しながら、今度はちゃんと聞いてあげることにした。……うん。モテる自慢はもう聞き飽きたから別な話題にしてくれないかなあ。

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