小物中の小者だったらしいジャン・ルッケル。彼をすぐに追おうとしたものの、わたしの肉片たちは未だバラバラのままで、待っていたら逃がしてしまう。けれど、あんなに動揺した奴が簡単に逃げ果せるとは思っていない。仕方がない。痛みで蹲っているカイが纏っていた服の一部を引きちぎろう。断じて追い剥ぎなどでは無い。…断じて。引きちぎったそれに自身の肉片を入れ、手首まで再生したわたしの左腕を断面から覆うように右手と口をつかって結ぶ。傍から見れば滑稽な、風呂敷で掌を包んでいる様子である。見つける頃にはくっ付いていてくれ。そんな事を祈りながら走ってジャンを追いかけた。そう遠くまで行っていないはず。目の前の通りを走っているのならまだ背中が見えるだろうに姿は見えない。ということは、彼は裏通りの方に入ったのだろうか。どこの路地から裏通りに入ろうか考えていると、ガッシャーンッと何かが倒れる音がした。
「…あっちか。」
あれ、
あの廃工場はたしか……
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