馬鹿騒ぎ
41 モンキーレンチと赤毛の男
僕は『一人で来い』と書いてあった手紙の通りに廃工場へと『一人で』やってきた。連れ去られたシャーネを救おうとして、だ。その途中で銃を持った黒服の女の人に会った。どうやら彼女は僕を知っているようだった。そりゃあそうだよね、何たって手配書が出てるんだ。知っている人は知っているさ。…あれ?でも、ということは、あの女性は裏社会の人間なんだろうか?

*


『一人で』やって来た僕と同じように、仲間たちがそれぞれ『一人で』やって来た。結局みんな揃ってしまった。何てことだ。確かに心強いけど、僕は一大決心をしてやってきたってのに。半ば安心したような気になって、仲間たちの顔を見渡した。あれ、ひとりだけ見慣れない赤毛の男が紛れ込んでいる。誰だ?

「(あれ?そういえば、あの時の女の人が赤毛の男に、って言っていたような…)」

彼女は『お前が助けなくてどうする』と言えと、言っていた。あの人の知り合いなんだろうか。聞きたい、だが、言いだすタイミングは今じゃない。まずはシャーネを助けに来たんだ!優先するべきなのはそれだ!……そう思ったんだけど、助けに来たのは僕らのはずなのに、気が付けば赤毛の男とモンキーレンチを持った青い作業服の男がやりあっている。

「まだやるか?」
「赤毛の男。貴様、俺のレンチに対して全く恐怖が無いな。畏れがない。恐れがない。怖れが無い!全く失礼な話だ!俺はともかく、レンチの一撃の衝撃と物理法則に謝って貰おう!」
「そりゃ確かに恐くはないが、当たれば死ぬってのは弾丸でも一緒だし、斬撃って意味ならクッキーとの喧嘩で慣れてるからな」
「クッキーって誰だ!」
「俺の友達だ。知らないのか?」

初めて出会った人の友人を知ってるわけがないじゃないか。そんな理不尽な会話の直後、廃工場の外からドラム缶が倒れたような大きい音が聞こえてきた。それを聞いたのか聞いてないのか、作業服の男は近くにあったドラム缶を蹴り上げ、レンチで野球ボールのように打ち上げた。それを赤毛の男は足をうまく使って歪んだドラム缶の円筒ごと地面に着地する。

「まあ、身長は3メートルは軽く越してたな」
「怪物だ!」

そんなやりとりを繰り広げている二人のいる空間はまるでサーカス。動きも、言葉もうまい具合に攻防が繰り広げられている。そのテンポの良さを崩したのは、廃工場の入り口に駆けこんできた男だった。

「た、たすけてくれ…!!」

ガタイのいい体。わりと高い身長。引っかかれたら深い斬撃が残りそうな突起物のついたグローブ、まさか、この人…

「クッキー…?」




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原作の分をすこし引用させてもらっています。
_41/83
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