ぐちゃり。ぼたぼた、いやな音。いつまでたっても楽しくない、血なまぐさい音楽。
「盾にするとはねェ、なかなかえげつねーな魔女(マスカ)さんよ」
目の前でぐちゃぐちゃになった肉塊を手放し、もう一度間合いをとる。いくら元通りにもどるとは言え痛覚が消えるわけではない。痛いのは人間だれでも嫌だ。先ほどからガタイのいいジャン・ルッケルの拳を避け続けていた。不死者といえど、疲れるものは疲れるのである。そのため、ただの肉塊に成り果てた男の骸を引っ掴み、間合いを取る代わりに目の前にかざした。その結果、余計な血飛沫を浴びてしまった。
「余裕があった割りには攻撃してこねェな?」
不戦協定がルノラータとガンドールの口約束とは言え、派手に暴れるわけにはいかない。銃を乱射するのも弾の無駄遣いだ。簡単に言うならば、静かに生け捕りにするにはどうしたらいいのか、わたしは悩んでいた。
「(二人とも同時に突っ込んできてくれるなら一気に片付けようがあるんだけど…)」
戦闘プランを全く考えていないわけではなかったが、相手も一応殺し屋。それも、自分の快楽のために殺しをする。ジャンが拳を振るう時にカイはわたしと距離をとり、わたしが避けた先へナイフを振りかざす。掠る程度で傷には至っていないが、互いに邪魔をせずに楽しもうっていう魂胆らしい。
「(2対1はめんどくさいわね、)」
拳は威力をつけるためにはどうしても動きが大振りになる。つまり、意識が集中する上半身に比べて下半身は隙だらけ。それじゃ、いっちょやってみますか。
「ちょこちょこ避けてんじゃねえええよっ!!!」
ジャンが拳を振りかぶる。今度は間合いを大きく詰め、ジャンの真下に潜った。
「「!?」」
ブシュッ
「てめえ、何オレを斬ってんだ!!」
「ごめんごめん、彼女の動きに夢中で、」
パアンッ!もめている二人へ弾をひとつ撃ち出した。
「ったぁ…!話してる最中に撃つなんて、ひどいじゃないか」
わき腹から血を流すジャンに、右耳の欠けたカイ。
「いつまでも避けてられないしね、疲れちゃったし。」
同時に相手にするのも、疲れちゃった。このあたりで、どっちかに絞らないとね。
「ん、決めた。」
痛いのはイヤだけど、この際しょうがないか。
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