馬鹿騒ぎ
38 うねって循環*
「負ける気はしねぇが、生け捕りにしようってんなら無理な話だぜ。」
「僕らだってね、弱いわけじゃないんだよ?」
「つよいわけでもないわね」

ふふ、とわざとらしく笑ってみせる。効果は上々、ふたりの顔がみるみるうちに歪んでいく。

「僕らをそこらへんの小物と一緒にしないでくれないか」
「小物?」
「分が悪ぃのはそっちのクセして余裕しゃくしゃくでムカつくんだよ」
「小物なんて言ってないでしょ。気にしてるのが余計小物くさいわ、」

良く回る口だなあ、なんて思いながらゆっくり前に歩き始める。

「そうね、べらべら喋るところもいかにも弱そう。負け犬の遠吠えってやつ?」

パァンッ、乾いた音を合図に走り出す。標的は2つ。ひとつは刃渡り40くらいのナイフが両刀。もうひとつは…

「考え事たァ、余裕だな?」

ブンッ!!

頭上を大きな拳が横切る。ガタイの良さを活かしてなのか、目の前の男は鋭利な突起がいくつか付いたグローブを両手につけている。

「(もう少し遅かったら串刺しだったな、)」
「ホラ、その顔。ムカつくんだよっ!!」

もう一振り。避けるために後ろに間合いをとろうと脚に力をかける、すると、何かの光が視界の隅に入った。行き先を変え、左へと跳ぶ。

「おおっ、何だよ反応早いなー」

急な方向転換のせいで勢いを殺せず、地面を滑った。
ズザザザッ、と大袈裟な音を立てて停止する。掌を擦ってしまい、痛みが走った。じんわりと血が滲む感覚と、うねるように自身へと還ってゆく感覚にため息が出る。

「余計な怪我させないでよね」
「ほざけ、どこも怪我なんてしてねェだろうが」
「そもそも遠距離専門の君が接近戦に持ち込むなんて自殺行為だよね」

にやり。不自然なまでに吊り上る口角は彼の持つナイフの刃に映っていた。自分が遠距離専門の殺し屋などと言った覚えはない。ただ、使い勝手がいいのが銃なだけ。目の前の二人と仕事をしたときも確か銃を使っていたはずだが、仕事の効率の良さから選択しただけのこと。

「自殺する気はないのでご心配なく。」

訂正。自殺できるようなカラダじゃないんです、わたし。


_38/83
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