「わたし、好きじゃないんですよ」
うわあああ!と飛び込んでくる男に銃口を向ける。
「…かくれんぼってね」
*
銃弾が肉を引き裂くと同時に血飛沫が舞う。
「お、おまえは、誰、だっ……?!」
カタカタと震え、動けない様子の男がひとり。わたしが踏み台にした男がひとつ。焦りのあまり無闇に飛び込んできた阿呆がひとつ。にやにやとこちらを見つめる男がふたり。
「残念だけど、あなたに名乗る名は無いの。」
「おうおう、威勢が良すぎてワクワクすんじゃねぇか。」
「お久しぶりですねぇ、魔女(マスカ)さん?」
「え、あ、まッ、まマ魔女っ、て……、」
「オメーなに、ビビりすぎで笑えんだけど」
図体のでかい男が、あっはっはっ、と手で顔を覆いながら大きく笑っている。それから、興奮しているのを抑えるように深呼吸してから、ニヤリと意地悪く微笑んだ。
「動けねェなら、邪魔だろ」
尻餅をついたまま怯えていた男の襟首を掴み、倉庫の後方に投げ飛ばす。投げられた男はコンテナに体を打ち付けて伸びていた。
「そんな乱暴にしちゃカワイソウだろ」
「いんだよ。オレがやんなくてもどーせコイツが殺すだろう」
そう言ってわたしの方を顎でしゃくる。
「……わたしが何で来たのかはわかるわね」
「どーせ、あのジジイの差し金だろ。考える必要もねーや」
「場所を割り出されるとは思ったけど、案外早かったね。もう少し遅かったら東国に逃げてたけど」
「割り出すも何も最初から知ってたわよ、あのじいさん」
「あぁ?」
「逃げ道をお膳立てしてくれてたみたいでね。すんなり逃げれて楽だったでしょう?不戦協定なんてあってないようなものわざわざ取り付けるなんてバルトロらしくないと思わないの?」
ふふん、と笑いながら、さっき撃ち殺した男の持ってるナイフを拾う。なかなか切れ味よさそうね。手入れを怠っていなかったのか、はたまた一度も肉を切ったことがない刃なのか。
「……どういうことだい」
「そのままの意味。今回の件はグスターヴォがやらかしたのを尻拭いしただけ。ガンドールの方も元からバルトロ側だったわ。だから、敵対なんて元々していない。」
「おまえ馬鹿か。だったら不戦協定を結ぶ意味はないだろう」
「だから、お膳たてしてくれたって言ったじゃない。それじゃあ、ここで質問です。なんのために不戦協定は結ばれたのでしょうか」
「………!」
「やっと気づいた?そうそう、あんたらみたいな裏切り者を割り出すために利用したのよ。」
驚いてる顔にめがけて、さっき拾ったナイフを思いっきり振りかぶる。
「……そうかよ」
狙った顔はナイフを寸でのところで避け、その頬を微かに切り傷が残った。避けられたナイフの落ち着いた先は、
「ぐあッ」
先ほど放り投げられた男の頭だった。男たちは静かに振り返ってナイフの刺さった男を一瞥すると、鋭い視線をこちらに投げかけてきた。
「……で?オレらをどうしたいのおまえは」
「バルトロにつきだすだけよ」
「オレらよりも殺しちゃった3人に吐かせればよかったんじゃないのかな」
「いいのいいの。吐かせるのが目的じゃないから」
「2対1で勝てると思ってんのか」
「負ける気はしないわね」
「オレ、気が強い女の子嫌いじゃないよ。気が強いのに切り味柔らかいし。」
「サラっとイカれてること言ってんじゃねーよ。ま、オレは殺れりゃあ何でもいいぜ」「やる気は十分のようね」
それじゃあ、さっさと始めましょうか。
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