馬鹿騒ぎ
36 かくれんぼはお得意ですか?
走る、走る。どうせならさっさと済ませちゃったほうがいいからね。13番地の工場を過ぎた。確かに複数の人の気配がある。シャーネって子のことも気がかりではあるけれど、クレアの話を聞く分には助けなんて必要ないようにも思える。ま、あの少年が何とかしてくれるでしょ。隣りの工場はバツ。大人数の溜まり場の近くに潜伏なんて面倒なことはしないだろう。ふたつ隣りの工場に近づく。すこしスピードを落としたが、工場を見てすぐにスピードを戻した。

「(ここも、バツ・・・)」

ふたつ目の工場を通り過ぎる前に立ち止まる。あぁ、これってもしかして、

「アタリ、かな?」

13番地の工場から三つ隣の廃工場。それは、他の工場とは少し離れて建っている。窓はちゃんとこちらを向いていて、見張りには最適の窓である。そして何より決定的なことが窓から見てとれた。

「やっぱり、キレイにしないと外は見えないものね」

さっきアタッシュケースを置いた倉庫に侵入する際に窓の外から中を覗いたがほこりがこびりついて中がちゃんと見えなかった。外から拭いても中のほこりがひどく、中を見渡すのは難しい。だが遠目で見てもあの窓は確実にキレイだ。それも、覗く分には困らない程度に窓際の端を擦って汚れを拭ったような跡。今までの工場はどれも横一列に連なっていたから、外からの敵を見張るのには適さない。この工場は潜伏するのにはうってつけだ。こんなことならDD社かガンドールさんにここの立地状況を聞いておけばもっと早く見つけられたのになあ。そんなことを思いながら、そろりそろり、と近づく。ほこりのついていない部分からは見張りの顔も頭も何も見えなかった。どうやら今はチャンスらしい。少し小走りに、音をたてないように窓際に近づく。窓の隅のキレイになっているガラスを覗き込むと、うつらうつらと頭を揺らして佇んでいる男の頭頂部が見えた。

「みーつけた」

きっとこの窓も、裏口も鍵がかかっている。ということは強行突破しかないわけで。

「それじゃあ、サヨウナラ」

ガラス越しの男の頭に照準を合わせ、つぶやく。ガラスが割れる派手な音と同時に窓に飛び込み、倒れこんだ男の背中をクッションに、廃工場の中へと入りこむ。血相を変えて駆けつける男ふたりと、驚いた顔でこちらをみつめる男ふたり。

「みなさんごきげんよう。かくれんぼは、おしまいですよ?」


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