馬鹿騒ぎ
32 いつものところにツケますよ
「それでは、現在逃亡中の5人の行方です。」

右手の人差し指を立てた男は、得意げに笑って一枚の書類を分厚いファイルから取り出した。わたしが読みやすいように向きを変え、トントンと指で突いてみせた先には、乱雑な字でルノラータとメモ書きがしてあった。

「これが現段階でうちの会社に届いている情報です。これから事態が変わることも十分にありますのでどうかその点は悪しからず。」
「問題ないわ」
「潜伏場所はハドソン川付近の廃工場。いくつかあるうちのどこかに5人がいるとの情報です」
「どこかって随分曖昧ね」
「彼らも点々としていまして、最初はNJの中をぐるぐると巡っていたようですがいきなり路線変更をしましてね。マンハッタンに入ったところまでは完璧に足が取れていたのですが…。」
「そう。でも、いまもその辺りから動いてはないのよね?」
「おそらく。ただ、」
「ただ?」
「工場のひとつが不良の溜まり場になっているようでして。」
「数は?」
「詳しい数は把握しておりませんが軽く10は居るかと。」
「ふうん。この時代だもの不良なんてどこにでもいるわ」



警察のお世話にならないよう静かに任務を遂行するには不良たちを巻き込まなきゃ良い話だし、10くらいいたところで別になにか困ることもない。少し"眠って"いてもらえばいい話だものね。



「それもそうですね。では、一応言っておきますがそれのリーダーは少々厄介ですよ。大きなレンチを持った変人です。」
「変人、ねえ・・・」

自分自身、一般の人間とは違う体をしているんだし、性格が変だろうとそれは所詮人間だ。クレアくらいのやつじゃないとそこまで困らないと思う。

「平気よ、それくらい。」
「そうでしょうねえ」
「……これくらい聞ければ十分ね。代金はさっき言ったようにルノラータに回してくれる?」
「かしこまりました。」
「それじゃあ。」

くるり、と方向を変えDD社を後にしようとすると、男に声をかけられる。

「なにか?」
「またお待ちしていますよ。今度は、゛あなたの本当に欲しい情報゛をちゃんと揃えておきますから」


ね、魔女さん?、と男はうすく目を開いて笑う。

ああ、ほんと。こういう奴ってとっても苦手。


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