馬鹿騒ぎ
30 スタート
カシャンッ。無機質な音が部屋に響く。

「よし、はじめようか」

とりあえず、仕事道具を入れた少しガタイのいいケースを持ち、部屋を後にする。銃を専門で扱っているわけじゃないけど、今回の仕事に向いてそうなのは銃だったこともあり数丁用意しておくことにした。人数が複数な時点で接近戦に持ち込むのはこちらとしては不利だ。そんなわけで今回のパートナーが決まった。正直なところ真昼間から銃を撃つのは気が引ける。いくらこちらがサイレンサーを使用したとしても相手もそうだとは限らない。それにサイレンサーを使うと威力が少々落ちてしまう。確実に仕留めることを考えると不安要素はいくつかあった。まあ、全部にサイレンサーつけてるわけじゃないし威力のことは心配しなくとも良いか。多少うるさくなってしまうのには目を瞑ってもらおう。

ところで、相手がNYにいることは分かっているのに詳しい所在はわからなかった。たしか、この前のグスターヴォの件で訪れたDD社ではどんな情報でも取り扱っていると聞いたことがある。それならば裏切り者たちの所在も把握している可能性が高い。情報というものは思いがけない所から集まるものだ。それを意図して探しているのならきっと確実に手にしているに違いない。あれ、そういえば。DD社ってどうやって行くんだっけ


「……やあ。」
「朝っぱらから散歩ですか悪魔さん」
「悪魔じゃないと言っただろう」
「冗談ですよ。ロニーさん」

散歩にしてはかっちりとコートを着込んでいるロニーさんに若干違和感を感じた。

「(偶然会うなんて不自然よね。わざわざ来てくれたのかな)」
「偶然なわけがないだろう。こんな朝早くに私は出歩いたりなどしない」

ロニーさんの言葉はまるで、お前は馬鹿か?と言っているような言い方である。失礼な人だ。というか、人の心を読み取るのはやめてほしいと言ったはずなのに。

「おまえはすぐに顔にでるよ。鏡をよく見てみたらどうだ。」
「…顔に出るとかの問題じゃないような気がするんですが」

この人と細かいことを言い合っても不毛だということをわかってはいるのだが、どうしても気になってしまう。朝からなんとも言えない気分になったわたしはロニーさんに気づかれないくらいに小さなため息を漏らす。

「いつまでそこでぼうっとしているつもりだ?行かないのなら置いていくが?」
「はい?」
「だから、行かないのかと聞いてるんだ」
「行かないのか、って、どこに?」
「どこも何も決まっているだろう。」
「もしかして、案内してくれる感じですか」
「そういうわけじゃあない。私用のついでだ」
「そうですかー。いやあ、助かりました。この前行ったとはいえグスターヴォについて行っただけですから道とか覚えていなくて。ほんと、ありがとうございます」
「・・・まあいい。そういうことにしておいてやろう」

そう零し、コートを翻して進んでいくロニーさんを慌てて追いかける。足が長い人は歩幅も大きい。悪魔がこうして歩いているというだけでもなかなかに感慨深いものだと考えていたらあっという間に離されてしまった。待ってくれるという気遣いはないらしい。それもそうか。"私用"のついでだものね。

「昔よりも人間っぽくなりましたね悪魔さん」
「…ふん、元々悪魔なんかじゃあないさ」

にやりと笑うロニーさんはとっても悪い顔で、余計に人間くさい感じがした。



_30/83
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