馬鹿騒ぎ
26 依頼
「よく来たな、魔女(マスカ)」
「お久しぶりです。Mr.バルトロ」

自分で呼んでおいて「よく来たな」じゃないだろう。

「そう渋い顔をするな。休養中に呼んですまないとは思っている。」
「・・・依頼内容は?」
「うちの殺し屋から裏切り者が出た。数は2人。それの息のかかった下っ端の構成員を含めて5人で現在逃亡している。5人のうちの殺し屋は生きたまま捕縛。残りは殺して構わん。好きにしろ」
「で、場所はNYなんでしょう?どうしてわざわざこっちに呼んでそんなことの説明を聞かせるのですか」

結構重要な内容かと思いきや、案外そうでもない。どうしてこんなわざわざ電車賃と時間を無駄にしてこっちに越させたんだろうか。そう思って、バルトロに質問を投げかけると、そっけなく笑いながらため息交じりに返事を寄越した。

「簡単な話だ。議会や委員会の承認なしでは部下の処分さえできないつまらん時代になったってことだ。その結果が出てからおまえに部下を送ったとしたら雑魚相手にてこずっているとでも思われるだろう。裏切り者を野放しにした挙句、すぐに対応もできないだなんて実に不名誉じゃないか。おそらく今頃やつらはNYに入る頃だろうよ。わざわざ逃げ道をお膳立てしてやったんだ、ちゃんとこっちの思惑通りに動いてくれないと困る。」
「お膳立て、ですか?」
「ああ、どうやら今回の裏切りの主犯は殺し屋ではないようでな。目星はついているが、なかなかどうも尻尾をださない。今日、ガンドール・ファミリーと不戦協定を結んだ。このことはまだ幹部にしか教えていない。だが、数日前に逃亡したやつらの進路が変わった。場所はNYのガンドールのシマだ。不戦協定を結んだことによってガンドールのシマに手を出せないということを念頭に置いての変更だろう。それを指示できる者がまだ組織の中にいるということだ。裏切り者をダシにさらに裏切り者を炙り出す。そのために殺し屋二人は捕縛しろ」

ああ、そういうことか。今まで疑問しかわかなかったことがすとん、と落ち着いた。逃亡先をより確実に仕留められるところへ追い込むために、わざと幹部に不戦協定の話を知らせたのか。不戦協定を持ちかけたルノラータがガンドールのシマを荒らすなんてできない。それを見込んでのNYへの逃走…。全く、面倒なことしてくれるじゃないの。

「グスターヴォといい、今回の裏切り者といい、とんだ恥さらしだ。…ガンドールには話をつけてある。一応近くのシマのマルティージョにもな。だから少しくらいなら派手にやってもいい。」
「それくらい詳しくわかってるっていうことは、ちゃんと居場所は突き止めてるんですね。それならわたしじゃなくても良いでしょうに。」
「相手のシマをあまり荒らさないことを条件に今回の不戦協定を利用したからな。下手な殺し屋に派手に暴れられても困る。」
「あのー、さっきと言ってること違うんですけどー」
「おまえなら節度ってもんがあるだろう?それを見込んでってことだ」

見せしめにもなるしな、とほくそ笑む男は実に楽しそうに話す。

「まあ、楽しみながら任務を全うしてくれ。魔女よ。」
「……楽しいわけないじゃないですか。」
「はは、それもそうだな。おまえは殺し屋のくせして殺しに依存しない、なかなか貴重な存在だ。ただの殺人享楽者に成り下がる輩は何人も見てきたがおまえは変わらんな。本当に昔から・・・」
「昔話に付き合ってもいいですけど、それこそ不名誉なこと言われちゃいますよ」
「なに、すぐに殺さんでもいいさ。不名誉なことなど実力で塗りつぶしてやるからな」
「今日は矛盾ばっかりですね」

「だから、好きにしろって言っただろう?」

要約すると、そこまで相手にするほどでもない雑魚だから、処分できればそれでいいってことですか。


_26/83
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