馬鹿騒ぎ
22 仕事で馴れ合いは致しません
「チェス、荷物持ちのお礼に何か買ってあげるよ。何がいい?」
「なんでもいいよ」
「んー、じゃあ雪国でも行ってみる?シロップも買っちゃうよ」
「ねえ、そのネタもう引っ張らないで!!」
「はは、冗談よ。」
「リアが言うと冗談に聞こえないよ…」
「チェスは気にしすぎなのよ。もっとどーん!って構えないと」
「リアはやりすぎ。無神経と大差ないよ」
「失礼ね。いくらなんでも無神経だなんて」

昔のチェスなら、やめてよぅ…とか言って目を潤ませるんだけどなあ、なんて思うけど、かわいいかわいいチェスくんはもういない。朝にかわいいなって思ったけれど、あのチェスはどこへ行っちゃったんだろう。

「そういえばマイザーが買い物終わったらお茶にしようって言ってたよ」
「あら。じゃあ早いとこ戻りましょう。今朝いただいたお茶とっても美味しかったしね」
「今朝じゃなくてお昼の間違いでしょ?」
「細かいことは気にしないのっ!」

買ったものが雑多に入った紙袋を抱え直して、チェスと二人で通りを歩いた。重い方を持つといってきかなかったけれど、そもそもの体格差があるのだから無理な話だ。チェスには比較的軽い方を持ってもらい、わたしは缶詰だとか重いものが入った袋を抱えて蜂の巣へと向かうことにした。



*



蜂蜜屋の中にある扉から、見慣れた姿が現れる。

「なんだ、ラックじゃないか。おまえがこんな時間にくるなんて珍しいな」
「少し、用事がありましてね。フィーロ、リア・コストスさんはこちらにいますか」
「リア?今は居ないが…、なんだおまえら知り合いか?」
「最近、仕事の方でお世話になりましてね。彼女に用事があるのですが、今日はここに来ますか?」
「リアならこの後お茶しに来ますよ。それまでご一緒にお茶どうです?」
「そうですね…、なら御馳走になりますか。おっと、その前にモルサ・マルティージョにご挨拶でもしてきましょう。彼は上にいますか?」
「ええ。いつものところにいますよ」
「ありがとう。それでは失礼。」

そう言って、うちのボスが居る部屋へつながる階段をラックが登り始めた。その表情は少しだけ硬く、いつもオレに向ける顔じゃなく、仕事用の顔だった。

「ラックの奴なにかあったんですかね。普段はわざわざ挨拶なんて行かないのに。」
「いくら仕事で馴れ合わないとはいえ、報告があった方が助かりますよ。そうしないと、もしも我々に火の粉が飛んできた時の対処が遅れますからね」
「なるほど。しかし、ガンドールがリアまで雇ってるとは…。」
「彼女も今回の件に絡んでるようですがガンドールで雇ったわけではないようですね。そんな感じのことを言ってましたよ」
「へえ。まあ、葡萄酒と魔女って言ったらフリーの殺し屋の中でも有名っすからね。同時に雇われたらいくらルノラータでも大変だ」
「そうですねぇ。さて、もうそろそろ二人も帰ってくる頃でしょう。」

そう言って、お茶の準備に行ったマイザーさんの顔は少し寂しそうな顔をしていた。そういえば、リアが殺し屋をしている話になるたびにマイザーさんはこんな表情になっていなかっただろうか。昔の仲間がそういう仕事をしているのが辛いのか。・・・そういえば、リアがどうして殺し屋になったのか知らないな。思い出したいわけでもなく自然に流れ出てくる、ある男の記憶の中の彼女は、殺し屋になるような人物には映っていなかった。まあ、奴の視点から見てもそんなに彼女を意識的に記憶に残している部分は少なかったが。なんとなく、気になる。


どうして、こんな薄汚れた世界に彼女は足を踏み入れたんだろう。





_22/83
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