馬鹿騒ぎ
20 兄弟みたいに
コンコン、朝から控えめなノックが玄関から聞こえた。

「はーい。どちらさま…、あれ?」
「下だよリア。」
「あ。ごめんねチェス」






「そんな拗ねないでよチェス」
「だって、そんなに大きくもないリアの視界に入らないなんて信じられないよ。わざとやってるとしか思えないね」
「わざとじゃないんだけどなあ…。ごめんね今お茶も何もないやー」
「べつにお茶しに来たんじゃないからいいよ。」
「そういえば、昨日どこ行ってたの?レイチェルさんだっけ、あの人と出てったのに」
「知り合いなの?」
「いや、知り合いの知り合いっていうか…。」
「それってもしかして、…葡萄酒?」
「そうそう。なんだ、クレアとも知り合いなのね」
「あんなやつ……!」

そう言って服を握りしめ、青い顔をするチェス。あぁ、これは何かあったのかなー…。クレアがぐちゃぐちゃにした死体を見た、とかかなあ。そういえばフライングプッシーフット号にチェスも乗っていたのよね。ってことは奴の"仕事"に巻き込まれた訳ですか。

「ごめんね。イヤなこと思い出しちゃったか」

そう言ってチェスの頭をなでてやると、今度はバツの悪そうな顔をしてしぶい顔をしている。

「子供扱いしないでよ」
「あらやだチェスったら反抗期?」
「リア!!」
「あはは!ごめんごめん。だって面白いんだもの。」

わたしがそういうと、ぷいっと顔をそらしてしまった。200年経とうが何年経とうが、かわいいものは変わらないんだな。と考えると思わず笑みがこぼれた。

「そうだ、お茶じゃないならどうしたの?」
「べつに…、ただ、何してるのかなあって思ってさ。」
「なんだ。わたしと同じ暇人ね。わざわざマイザーにアパートまで聞いてやってくるなんて」
「?マイザーに聞いてないの?」
「なにが?」
「僕、フィーロお兄ちゃんとエニスお姉ちゃんと一緒にこの下に住んでるんだよ」
「ええ?!ここってマイザーのアパートじゃないの?!」
「フィーロお兄ちゃんがマイザーから買ったとこだから、元マイザーのアパートってこと。」
「そうなの・・・。って、やっぱり3人で住んでも十分な大きさよね、ここ。わたし一人には勿体ないくらい広いわ」
「シカゴの家は狭いの?」
「んー。狭いって言えば狭いんだけど、本とか資料とかでいっぱいなのよね。なかなか処分する時間がなくって」
「そんなので奇襲されたらどうするのさ。殺し屋だったら敵がいつ来てもおかしくないでしょ?」
「まあ、適度に引っ越しするからね。今の家はちょっと長いけど…、次にシカゴに帰る時は引っ越すつもり」
「どれくらいNYにいるの?」
「うーん…。どのくらいかなあ。休養も兼ねてこっちに来たつもりだけど、いざこうして来てみると案外ヒマすぎるのかなって思ってきちゃった」
「昨日来たばっかりなのに…」
「だってやることないじゃない。チェスは毎日なにしてるの?」
「エニスお姉ちゃんとお茶したり買い物したり…、特にこれと言って何かしてるわけじゃないよ」
「ふうん…。ま、一応子どもなわけだし仕事なんてできないか」
「せめてもう少し大きかったらなあってつくづく思うよ」
「それわかる!わたしももう少し大人になってから呑めば良かったなって思ってる」

垢抜けてとびきり美人になったシルヴィがとっても羨ましい。わたしも後から呑めば少しは変わったのかしら。

「そういえば、朝ご飯食べた?」
「食べてないよ。昨日来たばっかりで何もないもの」
「じゃあ、ご飯食べに蜂の巣に行こう。その後に必要なものを買いに行こうよ」
「そうね。荷物持ち手伝ってくれる?」
「もちろん」

_20/83
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