馬鹿騒ぎ
17 魔女と葡萄酒と三男と
「リアは割といいやつだぞ!」
「割とって何」

*




「なんだ、ラックじゃないか。」
「奇遇ですね。たまたま通りかかっただけなんですが二人を見かけたので挨拶でもと思いまして」
「お仕事ですか?」
「ええ、まあ。今日の後始末の続きみたいなものですよ。」

それは大変だな。と他人事のように思う。ま、実際他人事だからしょうがない。グスターヴォは結局生きているようだが、きっともうわたしの目の前に現れることはないだろう。変な逆恨みで襲ってこなければの話だが、奴が来ようと別段問題があるわけでもなく、ただやりかえすだけ。

「ラックも一緒にどうだ?」
「お二人の邪魔でしょう。私は失礼しますよ。」
「全然そんなことないですよ。寧ろ、そろそろ限界なのでぜひご一緒してほしいくらいです」

クレアの幼馴染だと言うのならこの男の惚気話を受け流すなんてお手の物だろう。というわけで、ガンドールさんに一緒にお茶を、というよりクレアの相手をしてくれるように頼んだ。わたしの言葉に驚いたのか、ガンドールさんはつり目をすこし見開いていた。

「お二人はご友人だったんですか」
「まあ、そんな所だな。仕事でちょくちょく会ってたし」
「てっきりクレアさんのお相手がコストスさんかと思ってましたよ」
「え……?」
「おい、なんでそんな嫌そうな顔するなよ」

嫌に決まってるじゃないの。だって、葡萄酒が相手だなんて考えられない。

「なんて勘違いしてるんですかガンドールさん!」

クレアが葡萄酒だってことを差し引いたとしてもわたしがクレアの恋人になるなんてまっぴらごめんだ。この男の自分が世界の中心という発想がそもそもめんどうだ。互いに仕事の実力は認めているから嫌いというわけでも苦手というわけでもないけれど、全く考えもしなかった選択肢をぶら提げられて思わず苦虫を噛んだような気になる。

「コストスさんに初めてお会いしたときに、クレアさんと随分と仲がいいなぁと思ったもので…。気に障ったのなら申し訳ありません。」
「いや、そんな。謝らないでくださいよ。別に悪いことしたわけじゃないのに」
「リアはオレに謝るべきだと思うんだが」
「どうせ気にしてないんでしょう。だったら別にいいじゃないの」

まあ、オレにはシャーネがいるからな!という今日何度も耳にした言葉を発するクレアに頭が痛くなった。お願いシャーネさん、一刻も早くコイツをNYから連れ出して。目障りだとかそういう問題じゃない。疲れちゃうからさっさと連れ出して。


「はは、そういう訳ですか。お疲れ様ですね」

そんな爽やかに流していられるのも今のうちですよガンドールさん。幼馴染の貴方ならわかるでしょう。このクレアが一筋縄じゃ行かない男だってことを。

「あぁ、リア。ラックなんてどうだ?」
「……ハイ?」
「なにがです?」

ほうら、また何か余計なことを言いそうな顔してる。こんなに自信満々な顔をしているクレアにいい思い出はない。


「だから、おまえのお相手にラックなんてどうだ?」

_17/83
[ +Bookmark ]
PREV LIST NEXT


[ NOVEL / TOP ]
- ナノ -