思わず目を丸くしてしまった。この家に竹谷がいるのは当たり前のことだというのに。妙な感覚が、脳みそを揺らした。
「へーすけおかえり」
気の抜けるような笑顔を向けられて、兵助は焦る。こんなにも眩しい竹谷を見ると、やっぱり自分ばかりが汚い感情を持ち歩いているのが痛いほど見えるようで、やるせなさは拍車を増した。ただいま。と返せば、もう一度おかえりが返ってきて。鼓膜から、瞳孔から、じわじわりとその存在が伝わってきた。
「バイトお疲れさん」
「おう、…大学は、」
「今日日曜だろ、兵助疲れてんな」
「あー、少し」
眠気のせいかいつも以上に無愛想な自分がいる。声にしてから、ああ今の冷たいな、だなんて気付く。でも、どかりとソファーに身体を預けると、すぐにでも眠れそうで、そんなことはすぐにどうでもよくなってしまった。一眠りでもしないと、もう起き上がれそうにない。そんなことすら思っていたのに、ふと忘れていた存在に気付いて、咄嗟に立ち上がった。
「ちょ、どしたんだよ」
よほど驚いたらしい竹谷の手から箸が零れ落ちる。
目を向けた場所に依然と箱は座っていた。そのことに安堵して、「悪いなんでもない」そう言ってソファーに身を沈めた。
竹谷は何気なしにテレビをつけると、適当な番組に回す。日曜日の朝早くなど、所詮なにもやっていなくて、一寸も興味ない番組をぼんやり眺めた。
日曜日か。なにをしよう。兵助もテレビを眺めて、ぼんやり考えてみる。
なんかこんな状況は久しぶりな来がしてならない。
テストもあったし、テストが終わったかと思えば竹谷は部活、兵助は運悪くバイトづくめだ。
特にやらなくてはならない課題もない。
こんな日は、なにをしようか。
兵助は半分微睡みのなかに身を投げているかのように、意識が曖昧だ。
テレビの雑音に紛れて、ぴぴぴっと小さく電子音が聞こえる。竹谷は立ち上がってタイマーをとめると、まもなくカップめんをすすりだした。
「あ、なあなあ兵助」
「んー」
つづきます〜
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