「僕はボンベがないと生きられないんだ」


独り言のように黒髪の少年は口元のほくろを指先でなじって呟いた。


こうして少年は時折、感情の読めないような、はたまた最初からそんなもの存在していないような声色で、この言葉を紡ぐ。
じゃあそれ取ったら死んじゃうの?少女は何度も聞いたことがある言葉に、心から摩訶不思議だというように無邪気に丸くした目で問いかける。少年はその日に焼けたような琥珀色の瞳が、少し苦手だった。


…わからない、取ったことないから。
やってみようよ。
僕が死んでもいいの。
……だって……ちゅー、できないよ。


少女はいつだって悲しかったのだ。少年の顔がボンベに覆われている限り、きっと少女の心は晴れない。雨降りの空の下、慣れた寂しさの溜まった水溜まりを踏みしめていくのだろう。


少年はそれを知っていながら、決してマスクを外さなかった。だからと言って自ら少女の手を引いてくらがりに誘うことはなく、いつもいつも知っているだけの言葉をどうにか巧みに使って、少女を少しずつくらがりから遠ざけた。
僕のことを忘れられますようにと。
少しずつ少しずつ優しく気付かれないように突き放して、自分だけ一生抜け出せないくらがりに沈むようにと。


少女はなにひとつ、そんな少年の思惑を知らない。少年の、寂しい、は、すでに腐ってしまっていて誰もその実を拾ってはくれない。
少女ですら、叶わなかった。
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