「早川 美南、で検索してみて」


頭で何度もその言葉を繰り返しながら、表示された検索結果に目を通す。ただの好奇心だった。特に何を決する訳でもなく、本当に軽い気持ちで、私は"みなみのぶろぎゅ"をクリックした。


やがて表示された画面に思わず息を飲んだ。驚かずにはいられなかった。驚くよりも早く、真っ先に目を疑った。


控えめで通った鼻筋。整った眉毛。笑うと涙袋がふにゃりと浮かぶ、釣り目気味の大きな瞳。紛れもない、美南だった。あの栗色の瞳は原形を司っておらず、濃いつけまつげが目の上なも下にもべったり貼り付いていて、白い部分は本当にほんの少ししか見えていない。だが、すぐに美南だと確信できた。痩せ身にも関わらずふっくらとした頬がそれを証明していた。


「あんた瞬きしてないよ」


前に座っているお母さんの言葉に、うん、うん、と適当に頷いて、まだ事実を飲み込めずにいながらもマウスを握る手は止まっていない。画像を見る度見る度、知らない美南が次々と出てくる。何も考えずにひたすら記事に目を通し続けた。nextのボタンが灰色になり、クリックしても無反応になったところで私は手を止める。そして背もたれに身を預け、深く深く息を吐いた。心は不思議と落ち着いている。なのに、このざわめきはどこで起こっているのだろう。


予想していない訳じゃなかったんだ。ただ予想の範疇わ大きく超えていただけで、頭を悩める程大きな問題ではないのだ。
ただただショックだった。私の知らない美南が、屈託のない笑顔ではない、なにか意識したような笑顔を浮かべていた。…私はこの子を知らない。


「……あー」
「瞬きしな」
「ぱ、ち、…ぱち」


気を紛らわすために、擬音を声にして瞬きをふたつ。瞳はある程度潤っても、枯渇しそうなこの心臓はまだ雫を求めている。視線がまた画面に落ちると、私の瞼はまた瞬きを忘れる。みるみるうちに乾いていって、そしてようやく瞬きを無意識にする。 あー、なんだかなぁ。
見るタイミング間違えたかなぁ。最近気まずかったし、前みたいに遊んでいなかったし。そうでなかったから、こんな思いしなかったかもしれない。


「あ、これ見てない…」


不意にまだ目を通していない記事を見つけて、もはや壁の向こうの誰かを見に行くようにクリックした。


「無人島へ行く、なら、……」


そのあとに続いた名詞は携帯だとか音楽プレーヤーなど淡白なものではなく、固有名詞だった。


私の名前だったのだ。


ああ、なんで、なんで。美南は、やっぱり美南だ。
私の知っている美南をようやくみつけた。不意に目の奥が熱くなり、顔を手のひらで覆う。はぁー、と息を吐いて、指の隙間から再び羅列した字を覗く。


「うちがいるなら、生きていける?」


なんでそんなこと言ってくれるのだろう。不思議で不思議でたまらない。


美南にはいつも中学生でギャルメイクしたりチャラチャラするのを否定するように、くだらない、くだらないと言い続けてきたのだ。今わかった。それは面と向かって、美南自身を否定していたのだ。
なのに、なんでそんな私を無人島に連れて行ってくれるの。


画面に並ぶ知らない美南の姿から目を逸らさず、ぎゅ、と胸を掴んだ。そして私はどうしようもなく、美南に会いたくなるのだ。
私は携帯を開くと、もつれる指先で数字を入力した。
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