あのこの唇は不自然に光っている。


朱と桜の中間色の唇はある日を境に、桜色ひとつに染まった。
グロスを付けているのが見え見えで、ほのかに香りも鼻孔を擽った。どうもフローラルな甘い香りを私は好まないのか、思わず眉間にシワを寄せて「どうしたの」と問われることもあった。


なにより、その唇から紡がれる言葉が、私は大嫌いだった。


「興味ないけど。」


気付けばその台詞はあのこの口癖になっていたかのように思う。


なにが興味無いのか。皮肉をこめて、強く思った。 脳内では、は?と眉を寄せて腕を組む私が行列している。人差し指て親指で輪を作って、人差し指をはじくと、ばーん、と先頭の私は倒れる。でこぴんされた勢いでそのまた後ろでも、は?と連呼する私たちもドミノみたく倒れていく。


そうして怒りを沈めては、その度笑顔を顔面に貼り付けた。


むかつく。
上っ面の笑顔を浮かべても、やはり底から再び沸き起こるものは拭いきれない。


だって、興味が無い訳が無いんだ。
彼氏の話を自分から始めて、やばいよね、とイントネーション最高潮に達してからあのこは目を弧にして笑う。そのあと、上唇と下唇をこすりあわせてから、例の台詞。そして話題は終止符を打つ。


あれほど楽しそうに話して、あれほど可愛く愛おしそうに笑うのに、


「興味ないって、意味わかんないよ……」


あるとき私は、思っていることの要約をいつの間にか呟いていた。はっとして口を噤み隣を見ると、急にどうしたのと何を気にかける様子もなく、ただ笑っていた。なんでもないよ、と手を胸の前で振る。




「え、茉樹生徒会立候補すんの!」
「うん、なんか先生に勧められたらしいよ」
あくる日もあのこの唇は目立つピンク色だった。
「絶対行けるよね!よし、ちょー応援しちゃお」
「うちも!」
「まぁ、」
嫌なことに、真っ先に浮かぶのは興味ないけど、と言うあのこの姿だった。


「どうせなれるよねぇ」


けれど、違うのだ。


そんな事は度々あった。なんなのだろうこの差は。 私は酷く胸が、ざわついた。


「茉樹、ピッタリだよ」


私は頷いて、参道した。


茉樹が生徒会立候補するのにはそんなに興味があるの?なんで、彼氏の昨日のサッカー試合のことにはないって言うの?


どう考えても後方は嘘だった。あのこは私に嘘をつく。
とてもかわいらしいむつく嘘を。


いつもあのこはなんとも言えない表情をした。柔らかく笑いながら、目は冷たい。もうどれが本当で偽りなのかわからなかった。


ただ、私はあのこみたいに柔らかく笑うことはできなかった。


「……うそつき」


興味がないだなんて言わずに、素直に笑ってればいいじゃない。
あんたの彼氏のこと好きな人なんて数えるほどいるし、あんたの笑い話がすごい羨ましいって思うのもここにいるんだ。 興味がない。そう言うなら、全部私に頂戴よ。


ああもう、可愛く笑わないで。
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