全然大丈夫ですよ。そう言ったばかりにも、辛そうな咳をひとつふたつ、さらにみっつよっつするものだから、信用などできるはずなかった。前髪を上げて額に手を当ててみると、想像以上に熱くて思わず手を離した。こんなんで部活に出ようとしていたのか。呆れて宮坂を見ると、だから本当に元気ですから、ね!?うん、確かに、声はでかいんだけど。有無言わさず体温計を脇に突っ込ませて、しばらくしてからぴぴぴ、と電子音を聞く。俺が手を伸ばすと、宮坂は慌てて体温計を取り俺に隠すように背を向けた。


「宮坂、見せろ」


ひくり。こっちを一瞬見た宮坂の顔がひくついた。


「ち、違います!間違えたというか、もう一回チャンスをください」


間違えたって何だよ、口を挟む間もなく、宮坂は布団を被ってしまった。もぞもぞと微妙に動いている。なにか偽造を働こうとしているらしい。…はぁまったく。
すっかり最近切っていないらしい金色の糸が白いシーツに散らばっている。そっと触れて、人差し指と中指で挟んでみる。指先で梳かすと、しゅる、するる、つるる、と気持ちよい擬音が聞こえてくるようだ。宮坂は男なのに、髪がすごい綺麗だった。宮坂は俺の髪がとても好きだと言うけれど、俺の髪は枝毛が普通にあるし、梳かしてみても、るるなんて擬音は連想できない。


「宮坂、終わった?」


随分と平熱の偽造に苦労しているようで、なかなか宮坂は頭を出さなかった。もはや布団の盛り上がった部分は微動だにしなくなってきた。まさか死んでないだろうな。軽く叩いてみる。


おーい、宮坂、宮坂。


返事は無く、そっと布団を捲ってみると見えたのは後頭部だった。


「……うわ、」


それでも反応が無いと思ったら、すーすーと穏やかに寝息をたてていた。痩せっぽっちの肩が小さく呼吸している。前髪を撫でても、頬を指先でつついても、やはり反応はない。後ろ姿の宮坂は微睡みのなかにいた。


立ちひざになってを様子伺うと、手のひらやら脇やらに挟んで微調整をはかっていたのだろうか。想像すると、笑えてしまう。左肩ははだけたままだし、手のひらで力無く体温計が握られていた。ちなみに宮坂の努力もむなしく、体温計はエラーを表示をしていた。


「…ん……、ぅ」


幼い声がぽろりと聞こえて、起きたかと思えば宮坂は寝返ってうつ伏せになっただけだった。また自由にあっちこっち散らばった金色を、無性に整えたくなる。指先を一度毛先まで通して、静かに毛束を耳にかけた。起こしたら悪いと思って触れないようにと思っていたのに、無意識とは怖いものでそんな注意をはらう前に宮坂の頭を撫でていた。寝息が乱れることはなく、ほっとする。


するる。つるる。宮坂の髪を頭を撫でると、やはり頭の中でそんな擬音がはじけた。僅かな水紋を残して、甘く溶けていく。太陽をいっぱいいっぱい浴びたような、全く傷んでる訳でもないけれど不思議ととても美しく見える金色。正しくはきっと、少し濁った黄色。でも俺には金色に見えて仕方無かった。走って風をきると、太陽光を借りてきゅっきゅっ、はじけるように輝く。水を浴びたなら、、つらつら、星屑を詰め込んだように。朝起きたばかりなら、ぴょんぴょん、重力に逆らって。宮坂の髪は綺麗だ。口説き文句じゃなんてものじゃないけれど。


そうだ、俺は、俺の髪を好きだと言って伸ばし始めたあの金色に吸い込まれたんのだ。次に、喜怒哀楽の激しい碧の瞳。お揃いできるようになったんですよー、と無理に結んだポニーテールを見せびらかす満面の笑顔。うわ、何考えてんだ俺、気持ち悪い。


「……好きだなぁ、」


ぽろり。脆い壁から画鋲が不意に落ちてしまったように、簡単に零れた。


ひとなで、ふたなで、そしてから、自身の発言の失態に気付く。慌てて宮坂から離れて、背中にテーブルを強打した。「っ!」衝突音が鼓膜にも衝突してきた後にじわりと鈍痛が叫ぶ。さらにはがこん、びちゃあと嫌な音がして首を捻るとコップが倒れてフローリングに水溜まりを作っていた。ああ忙しいなんなんだもう!一緒にテーブルから落ちたらしい布巾を乱暴に拾い上げて、床を拭いていると、「っぷ」蚊を潰したような小さな音が耳朶を打った。まさかと思い咄嗟に宮坂を見ると、何ひとつ変わりはなくてまたホッと胸を撫で下ろす。


ん、いや、待てよ。震えてる?


「……宮坂?」


おいおい、宮坂の耳、あんな赤かったっけ。


いとおしくってむずむずしちゃう/花洩
20121218


無意識に恥ずかしいことしててふとそのことに気づいて
じわじわ照れ始めるふたり可愛いです
お互いのこととか大体把握して会話いらずなふたりも可愛いです
喜怒哀楽激しい宮坂とへたれいけめんな風丸可愛いです
きりないから黙ります
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