もう抑えられなかった。
 体育館の裏で告白なんてどこの少女漫画だと自分でも思ったし、でもその相手が男だなんて少女漫画でもありえないし、そもそも告白するつもりなんてなかったし、気付けば手を伸ばしていたことなど、全くの想定外だったのだ。
 不意打ちで手首を掴まれ後ろを振り返った赤司っちが、驚いたように目を丸くしている。
「……黄瀬?」
 静かに名前を呼んでこちらを見上げた。体育館の中からはボールを突く音やバッシュの擦れる靴音が響き始め、休憩も終了の時刻を表している。練習に戻らないのか? そう言いたげに首を傾げた赤司っちの、汗で湿った右手首は少し熱い。否、オレの熱が伝染したのかもしれない。だって手首を握っていない方も既にじりじりと焦がれ、冷えたスポーツドリンクを持っていなければ、今すぐにでも両腕で抱き締めてしまいたいと確かに感じたのだから。
「黄瀬、どうしたんだ。もう練習が……」
「――赤司っち」
 始まると言いたかったのだろう台詞の先を遮った。あまりに募った想いのせいで声が掠れたような気がして、まともに顔も見れなくなる。視線を逸らすと同時に俯いてしまったが、それでも手は離そうとしない自分の意志がなんだかおかしかった。オレはこんなに、恋愛が下手だっただろうか。
 言葉を遮られたことによって何か違和感を覚えたのか、赤司っちはそれ以上口を開こうとしない。代わりに黙ってオレを見据え、こちらの言動を待ってくれている。オレがあんたに何を言おうとしているのか、あんたに何を求めているのか、そんなことは微塵もわかっていないくせに卑怯だと、思わざるを得なかった。けれど、結局はオレから逃げようという考えもなく真っ直ぐに接してくれる優しさに、自分は甘えるしかないのだ。
 残暑とは言え燦燦と照る日差しが余計に強く感じ、練習で掻いた汗がぽたりと滴るアスファルトを焦がしていく。深く息を吸って、吐いた。それから手を離し、赤司っちから一歩距離を置いて目を合わせ、ぐ、と背筋を伸ばす。「……あのさ、冗談じゃなく、聞いてほしいんスけど」緊張で速まる心拍など構わず、気を付けの姿勢を取ってゆっくりと頭を下げた。
 だからどこの少女漫画だっつーの。
 ……なんて突っ込みは、今は勘弁してくれ。ちゃんと言いたかったんだ。


「ずっと、ずっと好きでした。……オレと、付き合ってくれませんか?」







 生まれて初めて自ら告白をして早三日、中学二度目の夏休みも終わり新学期が始まったわけですが。
「最近暗いですね、黄瀬君」
「なんか負のオーラ漂ってるよー」
「いつも馬鹿みてえにうるさいからちょうどいいけどな」
――散々な言われ様にオレのHPは減るばかりです。
「な、何なんスか皆して……」
 とは言えその原因は自分が一番わかっているし、否定できないのが現実である為にそう濁すほかなかった。ボールや得点ボードを出し、放課後練習の準備をしながら溜息をつく。周りには気付かれまいと思っていたが想像以上にこの心身は堪えているようだ。足取りが重いし、三日経ってそれもピークに達している。本音を言えば今日こそ部活を休みたいとも、少しだけ思っていた。
 ホームルームが済んで一軍のメンバーも大分集まってきたところで、オレ達の様子を端から見ていた緑間っちに名前を呼ばれる。
「黄瀬、落ち込むのは勝手だが……何かあったのか? 赤司と」
 そして最後に投げ掛けられた人名に小さく肩が跳ねた。この人まで察しがいいなんて予想外だが、本心を悟られないように取り繕うのは元より得意だ。
「何もないっスよ。ていうかなんで赤司っち?」
「ここ数日、あいつも上の空なのだよ。だがお前の話をすると大袈裟に反応することが多い」
「ふうん……気のせいじゃないスか? オレと居ても別に普通だし」
「ならいいが……」
 やばいやばい危ない。バレる。オレが嘘八百を並べても例えばあの人が緑間っちに相談をしたら、その努力は一瞬で水の泡となるだろう。いずれ知られることになっても構わないと思っていた時期もあったが、それは成功したらの話であって、今の段階で他人に口を挟まれるのは正直なところ嫌だった。
 でもきっと、こんな思案は全て杞憂に終わる。絶対に他言しないに決まっているからだ。男に告白されて返事に困っている、なんて、赤司っちじゃなくとも誰だって言い難い。
「赤司」
 不意に緑間っちがオレの後方へ目をやりながらそう呼び、来た、とつい身構えてしまった。こんな反応を三日も続けているから疲れるのだろう。こうなることは告白する前から予測できていたのだから、いい加減、普通に友達だった時のように振る舞え。一度目を瞑って小さく息を吐き、くるりと振り返る。
「珍しく来るの遅かったっスね、赤司っち」
 体育館の入口付近でしゃがんでバッシュの紐を結び直しているその人に声を掛けると、一呼吸置いてから彼は顔を上げた。
「……ああ、少しホームルームが延びてしまってね。すぐに練習を始めよう」
 そして二言目を口にする頃には立ち上がってオレの横を通り過ぎているのだ。目も合わされない。視線を落とし、意図的に避けられていることなど明白だった。
 まあ、予想の範囲内だ。
(わかってたことじゃんか……)
 ずっと部活の友人として仲良くしていた男友達に突然好きだ、付き合ってほしい、そう告げられて動揺しない人間などいない。接し方も変わって当然だ。それは覚悟していたはずなのに、寧ろ無視されないだけいいと言い聞かせているはずなのに、心臓から聞こえてくる悲鳴は大きくなるばかりだった。
 胸が締め付けられるなんて表現は漫画か小説の中だけだと思っていたが、実際そんなことはないらしい。俯いてその場に立ち尽くしていると一軍の召集がかかる。部活中は気を紛らわす為にひたすらバスケに没頭した。それでもこうして皆に向かって指示を出す主将の姿を見るだけで熱に浮かされそうだったが、だからと言って休むわけにはいかない。赤司っちに告白して、返事は待ってくれと言われ、露骨に避けられ、そこでオレがサボったりでもしたらきっと自分のせいだとあの人が責任を感じることはわかり切っているからだ。責める為に好きだと言ったわけじゃない。
 オレが想いを伝えたあの日、赤司っちはひどく動揺したようだった。

『す、好きって……え、いや、……オレは……』
『……ごめん、急に言われても困るよね』
 初めて見た、あんな困惑した表情。ぱちぱちと大きな瞳が瞬きを繰り返し、いつも流暢に言葉を紡ぐ唇はすっかり閉ざしてしまい、色白の頬にはほんの少し紅が差している。上手く笑えている自信はなかったが、眉を下げて苦笑しもう一度謝ると、赤司っちはなんで謝るんだと小さな声で言った。そんなに混乱しているのに、あんたは本当にお人好しだ。
『……黄瀬、確認してもいいか? それは、その、友達って意味じゃ……』
『ないっス』
 曖昧にしたくなくてはっきりと断言すると、赤司っちはいよいよ下を向いてしまう。どこまでだったら失恋した場合に気まずくならないだろうか。一瞬そうも考えたが、付き合ってほしいと告げた時点で良くも悪くも、以前のような関係にはもう戻れない気がした。
 そもそもオレが、この人に対して周囲の友人と同じ風に接することへ、既に限界を感じていたのだ。
『ね、赤司っち。今すぐ返事がほしいってわけじゃないし、……もし気持ち悪かったら、そう言ってくれて全然いいんスよ。そしたら諦める努力も、ちゃんとするから』
 ぎゅ、と柔く拳を握り締めて一番言いたくなかった台詞を告げる。
 口だけは上手い自分の逃げ口上を内心で嘲笑った。諦める努力? そんなものが出来るなら、同性に告白なんて馬鹿な真似に出る前にしてたよ。
『……でも、ちょっとだけ意識してほしいんだ。オレのこと』
 伏し目がちに戸惑っている赤司っちの顔を覗き込むようにして言うと、オレと目を合わせられないのか右へ左へと瞳が動く。その様子さえ可愛くて頬に手を伸ばしかけたのは無意識だったが、こちらが触れるよりも先に彼は口を開いた。行き場を失った右手が、一瞬宙を彷徨う。
『う、嘘じゃないんだよな』
『……信じてくれない?』
『っ! そうじゃなくて……』
『あはは、ごめんごめん。ほんとっスよ。友達のまま触りたいのに触れない距離続けるくらいなら、いっそ振ってくれた方がマシっスわ』
 なんて言ってしまった手前、触れることなどできずに結局手を引っ込めて笑うしかなかった。一度想いを曝け出すと自棄にでもなるものなのか、今までご丁寧に欲を抑え込んできた理性が思うように働いてくれない。ここが学校じゃなければ何をし出したことだろう。それこそ、あっという間に築き上げた信頼を全て失うような行動も容易く起こせたが、ただ嫌われたくはないという臆病な自己防衛が皮肉にも唯一の救いだった。
 嫌われたくないなら言わなきゃよかったのになと、そう悔やむふりをしたってどうせ心のどこかでは期待しているのだ。はぐらかすことなく聞いてくれている赤司っちを見て、真っ先に感じた自惚れがいい証拠だろう。もしかしたら、この人も――なんて、そんな夢心地はあとで自分を苦しめるだけだともわかっていたのに。
 最初からこの感情にけじめをつける為に伝えたのだから、無駄な希望は抱くな。付け上がるな。歯を食い縛って自分に言い聞かせていたおかげで、俯きながらも確実にこう呟いた赤司っちに、オレは目を見開いたのだった。
『返事、……少し、待ってくれないか。ちゃんと考えたい』
 最後にしっかりと視線を合わせて返され、頷くよりほか術はなかった。

――そして三日後。まだ、一世一代の告白に対する返事を保留にされたまま、今に至る。
 どう返答をされるのか、口頭なのか手紙なのかメールなのかも知らないが、こうして焦らされるのは想像以上に耐え難いものだったらしい。日に日に赤司っちの避け方があからさまになっていくのだ。いくら覚悟していたとは言え好きな人に逃げられて傷つかない者はいない。わかったと了承したのはオレの方だけれど断るならさっさと断ってくれ、情けなくも内心でそう訴える始末だ。現状のままでは諦めることも、忘れることもできない。
(これで振られたらどうすんだっつーの……)
 確かに今すぐ返事は要らないと言ったが、いざ実行に移されると上げて落とす作戦としか考えられないほどには卑怯だと思った。が、あの人が自ら考えたいと言った以上、オレの想いと真剣に向き合ってくれていることには違いない。そういう性格だ。おかげで返事の催促もできず、頼まれた通りただ待つだけ、渦巻く焦燥感とほんの少しの期待に苛まれながら必死に自分を抑え込むばかり。
 本音を言うと、目の前にいるんだから理性も体裁も捨てて早くオレだけのものにしたい。この腕の中に捕まえられるなら、赤司っちの意志さえ蔑ろにしてしまいそうだった。
「――以上が今日のメニューだ。まずはアップから、それぞれペアを組んで始めろ。……あと青峰、緑間、紫原、黄瀬の四人は少し残れ。連絡がある」
 今日の練習メニューを大まかに伝達され、指示に従ってオレも動こうとしたが、最後に主将に呼び止められて五人だけが残る形となった。次の試合のスタメンに関する連絡かと思ったものの、だったら黒子っちも必要なはずだ。コーチはまだ来ていない。何だろうかと疑問符を浮かべたところで、赤司っちは顔を上げて話を切り出す。
「今度の体育祭のことだが」
――体育祭?
 全く予想外の話題にオレは首を傾げたが、しかし。
「あー、もうそんな季節か」
「今年はこの五人なのか、赤司。……協調性に欠ける気がするのだよ」
「そんなものは後でどうにでもなるさ。単純に、オレ達五人が最も速い」
「えー……赤ちん、オレもー? すげーめんどくさいんだけど……」
「そう言わずに。お前を外すことはできないよ、紫原」
 自分以外は何も疑問に思うことなく赤司っちの言葉を理解したらしく、四人でどんどん話が進んでいく。けれどやはり何を指しているのかさっぱりわからない。「あ、あの……体育祭のことって……?」小さく右手を挙げ、間に入って尋ねるほかなかった。
「あ、そっか、お前去年いなかったから知らねーのか」
 そう納得した青峰っちが赤司っちに視線を送る。すると一瞬こちらを見上げた瞳と目が合ったが、ぱっと一瞬で逸らされてしまった。これくらいの拒否反応も慣れたものだと変に悟っていると、周囲におかしく思われないよう、赤司っちは極力いつも通りを意識した風に喋り出した。
「黄瀬、体育祭の午後最後の競技は何だったか覚えているか?」
 残念ながら去年のプログラムなんて頭の片隅にもない。
「お、覚えてないっスね……」
「部活動対抗リレーだ」
 淡々と明かされた答えに、おお、と納得する。なるほど。そういえばそんな競技もあったかもしれない。
「え、バスケ部っていつも出てたんスか?」
「運動部は強制出場なのだよ。部長と副部長を入れて五人選抜、他の三人は好きに決めていいらしいが……」
「コーチや監督は体育祭には関与しないからオレが勝手に決めさせてもらった。……と言ってもまあ、バスケ部は毎年レギュラーから出してるし、ランニングのタイムについてはお前たちが群を抜いてる。異論があるなら自分より速い奴を連れてこい」
 さすが、有無を言わせない主張に紫原っちも黙るしかなさそうだ。とは言え負けてもいい試合なら誰を出したって構わないだろう。それをしないということは、つまり。
「リレーも百戦百勝のうちに入る……ってことっスか」
 とても主将や副主将には聞けず、隣に居る青峰っちに小さく確認を取る。すると「簡単に言えばな」と浅く溜息をつきながら半ば面倒そうな口振りで返され、オレも苦笑するほかなかった。きっと伝統なのだろう。バスケだけならまだしも、こういう時に厄介な横断幕だ。
「バスケ部は毎年一位らしいぜ。それこそ全国出場してる陸上部とかサッカー部とか抑え込んでるから見物だって、教師からも保護者からも注目浴びてんだよ」
「へえ……」
「去年はオレ達の中じゃ副主将の赤司だけが選抜だったけどな。で、まあ支持が上がればバスケ部自体の待遇が良くなるとかで、全中終わったこの時期は一部の部員にリレーの練習も入ってくる……ってことだよな?」
「ああ。体育祭のような学校行事でPTAの評価を得られると、後々部の為になる」
 少しも躊躇うことなく身も蓋もない話をしている。
「す……すごい生々しい事情なんスね……」
 思わずそう呟くと、でなければこんなものに力は入れないよ、と赤司っちは言った。黒子っちを含め他の一軍が既に練習を始めているところを見る限り、本当に最低限の人手しか割かないのだろう。この様子だと恐らく補欠もいない。
 去年の体育祭は自分の競技以外に特に興味を持っていなかった為、やはりあまり記憶にはなかった。が、確かにリレーというのは白熱するに違いない、必ず勝利しなければならないという役目がオレ達には課せられたのだ。
「それで、今のうちに走順を決めたいんだ。何か希望があれば聞こう」
 手に持っていたファイルから一枚の用紙が取り出され、ちらりと中身が見える。リレー選抜メンバーと走順を記し、体育祭実行委員だか本部だかに提出するもののようだ。
「赤司、お前は自動的にアンカーじゃないのか?」
 緑間っちの発言に再び疑問符が浮かんだ。
 自動的にアンカーって? どういうことだと目をしばたたかせると、赤司っちはそうだな、と端的に頷く。
「ルール上、各部長は最終走者だと決まっている。だからお前たちで第一走者から第四走者まで決めてほしい」
 ラストは部長同士の戦いで盛り上がるということか。
「オレどこでもいいわ」
「オレも何番目でもいいけどー……あー、でもあれ、一番最初はやだなあ」
「なんでっスか?」
「苦手なんだよねー、あのスタート」
「クラウチングスタートか」
「そうそう。ピストルと同時に反応できないっつーか……意識しすぎるとフライングしちゃうし」
 眉を顰めてそう話す紫原っちの言い分は心底理解できた。できなくはないけれど、普段そんな練習などしていないオレ達にとって一瞬遅れるかフライングかの二択がほとんどであり、本当にちょうどのタイミングで走り出すのはなかなか難しいのだ。ジャンプボールとはまた訳が違う。
「なるほどな……。そういうことなら、第一走者は青峰か」
「えっ、オレかよ」
 顎に手を当てて考えた後、赤司っちの口から出された結論に青峰っちは目を丸くした。
「お前が一番耳が良いだろう。反応速度も四人の中では最も優れてる」
「いや、バスケならわかるけど……ピストルの音とか慣れてねーし、上手くいくかわかんねえぞ」
「構わないよ、トップバッターに全ての責任があるわけじゃないしな。ただし最初から相手を突き放すという戦法も含めよう」
「超責任重大じゃねーか」
 二人の会話に笑っていると紫原っちが「じゃあオレ二番目でいーや。早く終わらせたいし」と要望する。そこまでで誰からの反論もなく(青峰っちも諦めたらしい)、記入用紙に第一走者青峰大輝、第二走者紫原敦、と赤司っちはシャーペンでさらさらと書いていった。
 そして第五走者は主将。つまり残りはオレと緑間っちだ。
「黄瀬はどちらがいいのだよ」
「んー、どっちでもいいっスよ。三番と四番じゃ大して変わんないっしょ」
 なんて答えたこの時は、全く頭になかった。
「ならオレは三番がいいのだよ。アンカーにバトンを渡すのは気が重い」
――バトンパスという存在を。
「……あっ! ちょ、ちょっと待って、リレーの練習って何するんスか?」
「は? 何って……バトンパスに決まってんだろ。ただ走るのはいつもやってんだから」
 今更何を、とでも言いたげに眉根を寄せた青峰っちの返答に顔が引き攣る。まずい、これは非常にまずい。緑間っちからパスを受け取るのは何の問題もないが、バトンを回す相手が赤司っち――というのは、要するに練習の際に一番関わる確率が高いわけだ。
 三日前までの自分なら喜んで引き受けていただろう。でも今の状況じゃ、そう思ったものの、どっちでもいいと自ら言ってしまった以上、今になってみんなの前で撤回できるような雰囲気ではなかった。五秒前のオレを恨むほかない。くそ、こんなことならいっそ最初に立候補でもしておけばよかった。
「……第四走者でいいのか、黄瀬」
 しかもこの人はきっと、そんなオレの心境など手に取るようにわかっている。じっとこちらを見上げて尋ねる瞳に不覚にも気圧された。ここで嫌だと言い出せば周囲から何故だと聞かれるだろう。厄介だ。内心で舌打ちをしながらも、いいっスよ、と嫌な顔をせず主将に向かって返すしかなかった。あんたはそれでいいのかと聞きたい気持ちがなかったと言えば嘘になるが、さすがにそこまでの勇気はない。
「じゃあこれで決定だ。確認するぞ。第一走者青峰、第二走者紫原、第三走者緑間、……第四走者黄瀬、そして最後がオレだ。練習してみて不具合があれば調整も考える。いいな」
 そう告げつつ用紙にオレの名前を書く右手が、ほんの少し躊躇ったように見えた。


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