0日目  AM 00:12


 奴が来てから三日が経った。いや、『作られて』から三日が経った、の方が正しいかもしれない。
 正直言って、こいつのことはよくわからない。

「私は君の作った『インスタント・ボーイ』だよ」

 目の前でそう言い放った自称『インスタント・ボーイ』は、あの日からずっと俺の家に居座り続けている。俺は未だにそういう機械が存在するとは俄かに信じきれていない。といっても、先日あれだけ不可思議な現象を見せつけてくれれば、なんだかんだ言って信じてしまうのである。でもどう接したらいいのかは、わからない。
 おかげで俺は日々を緊張しながら過ごしつつあるというのに、何故かこいつからはそんな雰囲気を全く感じない。今、俺のベッドを占領して寝こけていることが何よりの証拠だろう。そのあたかも旧知の仲みたいな感じ本当にやめてほしい。自分でも何を信じればいいのかわからなくなってくるから。
 けれど奴は寝ている時間の方が長く、俺達はまだ数回しか言葉を交わしていなかった。それでも俺が納得できるくらいのこの機械についての概要は、奴が現れたその日に教えてくれた。


インスタント・ボーイ



0日目  PM 10:21


「…な、なあ、さっき言ってた『ちゃんと食べてくれないと困る』って、えーと……どうやって?」
 ご主人様、とわけのわからない呼称で俺のことを一度だけ呼んだ『インスタント・ボーイ』は、俺が呆けているのを余所に、無言でベッドに腰掛けて足をぱたぱたと動かしていた。そのまま十分ほど沈黙が流れ、気まずい空気に耐えられなくなりとりあえず気になったことを質問してみる。
 『インスタント・ボーイ』がその名の通りカップラーメンと似たような意味を持っていることには薄々気付き始めていたが、それでも人間の姿そのもののこいつをどう食えというのか。本当に『食べる』のではないに決まっているけれど、そういう意味での『食べる』とも違うんだろう。まず食われる側が男という時点でありえない。
 そして再び訪れる沈黙。何かまずいことを言っただろうか。『インスタント・ボーイ』は少し驚いたように目を見開いた後、頭上に疑問符でも浮かべそうな勢いで首を傾げてこう言った。
「口を使ってに決まっているだろう」
「…………」
 いやだから口を使ってどうやってお前を食うんだよ!
 俺は突っ込みたい気持ちを胸の内で抑えて、冷静に判断してみた。そして導き出した結果は二通り。天然ぶってるか、それとも完全なる無知かだ。こいつが本当に機械なら、恐らく後者だろう。人間とはかけ離れた存在のせいであらゆる知識が欠けていると考えれば、意味不明な返答でも少しは許容できる。でもまぁ口を使って機械を食べるなんて聞いたことない話だけどな。
「…質問を変える。なんで俺はお前を食べなくちゃいけないんだ?」
「君が作ったから」
「……そうじゃなくてだな…」
 駄目だ。話が通じない。俺は溜息をつきながら項垂れた。
 ていうか『食べる』ことに拘る必要なんてないんだ。食べてくれないと困ると言ったから聞いてみただけで、別に実際こいつが困ろうと俺には関係ない。食べる食べないなんてどうでもいいことだ。
 そう自分の中で結論付け顔を上げると、いつの間にか『インスタント・ボーイ』が目の前まで来ていて驚いた。
「お前、いきなり近付くのやめ……っ!?」
 突然、唇を塞がれる。それを理解するのに数秒はかかった。そして触れるだけのキスをして、『インスタント・ボーイ』はさも当然のように無表情で唇を離した。
「な、何して…」
「これ」
「え…?」
「これが、『食べる』ってことだ。私達の世界ではな」
 そう言いながら『インスタント・ボーイ』は再びベッドへ戻り、端へ座った。どうやらキスをすることイコール『食べる』に繋がるらしい、と落ち着きを払うふりは簡単だが、実際頭の中は混乱しきっていた。私達ってことは『インスタント・ボーイ』はこいつ一人じゃないのか。俺と同じ奇怪体験をしている奴が他にも居ると。
 事の進みが急すぎて何も言えずにいると、『インスタント・ボーイ』は俺の方に一瞬だけ目を向けてから、背中をベッドに預け寝転がった。
「…私のことは信じなくてもいい。あと、捨てたければ捨てても構わない」
 天井を仰ぎながら、静かな声で呟く。
「私に腐敗は起こらないし、賞味期限も無いが、価値を失えば勝手に消える設定が予め組み込まれている」
「価値?」
「ああ、『食べられる』っていう…まぁ存在意義みたいな感じだ」
 よく意味がわからなかった。存在意義なんてそんな哲学のようなことを言われても、どう答えればいいんだ。返答に詰まっている俺を見兼ねてか、『インスタント・ボーイ』は体を起こして補足説明のようにこう続けた。
「つまり君が、私がさっきしたように私のことを食べれば、それは私に『食べられる』価値があるということだ。逆に君がそうしなければ、私に『食べられる』価値が無いということになる。そうなったら私は消えるんだ。存在意義を失くしているからね。これは私の好きにはできないことだから、ご主人様が勝手にすればいい」
「あー…うん、なんとなくわかった。わかったけど…一つ言っていいか?」
「なんだ」
「その…『ご主人様』って呼び方やめてほしいんだけど」
「え、ああ…すまない。前がそうだったから…」
「前?」
「…ここに来る前の話だ。私達『インスタント・ボーイ』は価値を失くしたら消えるが、その後にまた別の人間に作られれば再生できる。その呼び方は、以前の奴がそう呼べと言ったのさ」
 まったく、とんだ悪趣味だった、と心の底から嫌そうな顔をして『インスタント・ボーイ』は言った。今までずっと無表情だった中でその表情はとても新鮮で、ほんの少しだけ親近感が湧いた。
「この姿とこの性格はあくまで君の設定したものだから、以前の私とは全く違う。そもそも…自分のことを『私』とは言っていなかっただろうな、多分」
「覚えてねえの?」
「多少の名残はあるが、消える時はほとんどの記憶をリセットするのが掟だから」
「へえ…」
 彼らの世界にもいろいろとややこしいルールが存在するらしい。『インスタント・ボーイ』は窓の外を黙って見つめていた。
「えー…と、じゃあ、俺のことは晴矢でいいから」
「晴矢?…晴矢様じゃなくて?」
「…お前本当どういう生活送ってたんだよ…」
 様付けなんて主従じゃあるまいし。とは思ったけれど、こいつが世間離れしてる理由もなんとなくわかったから、口には出さないでおいた。きっと『インスタント・ボーイ』からすれば至極まともな質問なんだろう。
「とにかく様は付けるな。で、お前の名前は?」
「名前……あ、ちょっと待て」
 そう言って『インスタント・ボーイ』は両目を閉じる。その様子を黙って窺っていると、数秒経ってから突然ぱちりと目を開いた。俺は思わず息を呑む。右の瞳に、さっきまでは見られなかった黒いバーコードのようなものがくっきりと刻まれていたのだ。
「…涼野風介。それが私の名前だ」
 名乗っている間に、すうっと模様が消えていく。本当に、こいつは機械なのか。
「…風介な、了解」
「あ、言っておくが、この名前を付けたのはお前だからな」
「え…俺?付けた覚えなんてないんだけど」
「私達の名前はお湯の量で決まるんだ」
 お湯の量って、あの作る時に適当に測って入れた奴のことか。それでどうやって決められたのかは知りようもなかったが、何から何までこいつは『作られて』いることを示されたような気分だった。そしてあんなものでいいのだろうかと不安になっていると、それを察したのか、風介は微笑んで言う。
「良い名前をありがとう」
 初めて見た表情に、俺は何故か胸が高鳴るのを感じた。
(いやいや相手男だぞ…それも機械……)
 どうしたんだ俺、と思いつつ、視線を逸らしながら「どういたしまして」とぽつりと呟いた。その頃には、俺はもう涼野風介のことを『インスタント・ボーイ』だと信じ始めていた。




3日目  AM 09:44


 自己紹介を終えた風介は、その後すぐに眠ってしまった。『食べる』行為をされれば基本的には体力は保てるのだが、作られたばかりでエネルギーの調整ができないらしい。
「二十四時間が経ったら調整は終了する。それから二時間、その間に食べてくれたら私は起動するが、そうしなかった場合は多分、消える」
 とても眠そうな声で、目を瞑りながら風介はそう言った。そして二十四時間、こいつは微動だにしなかった。俺は起こすかどうか時間切れになるまで散々悩み、結局目の前で消えられるのはあまり気分が良くないということで、躊躇いつつもキスをした。いや、キスじゃない。『食べる』行為をしたんだ。少なくともこいつはそう思っている。
そして寝覚めは悪くなかったらしく、風介はすんなりと起きておはようと言った。時間は深夜だった。それでも一応同じ言葉を返すと、風介は何も言わなかったが、その表情は明らかに安心の色を見せていた。当然だ。平淡な話ぶりで消えるとか捨てても構わないなどと言っていたが、そうされるとわかっていて怖くないはずがない。俺はその時の表情がやけに強く残ってしまい、三日経った今も、捨てるに捨てられなくなっている。
一日目、起きてからはベッドの上で寝てるんだか寝てないんだか、ごろごろとしているだけだった。俺が特に何も言わない限り向こうもだんまりで、よくわからないままあいつはまた眠った。次の日の朝、大学へ行く前に唇を重ねて起こす。どこのカップルだ…と自分で突っ込みつつ、でも風介の話によればあいつは『食べる』ことでしか目を覚まさない、というかそうすることでしか起きることができないらしい。つまり自分の意志では無理なんだ、と溜息をつきながら言っていた。風介は自分が『インスタント・ボーイ』であることに不満はないが、その点だけは不便すぎて嫌っている。
 大学から帰ってきても寝ているのには驚いた。エネルギー調整は一日やそこらじゃ終わらないということなんだろうか。相変わらず俺の寝所を占領している風介の体を揺すってみても、やはり微塵も動かず、朝と同じようにして起動させた。この時点で既にあまり抵抗がなくなっていたことには自分でも驚きを隠せなかった。慣れは恐ろしいというよりも、順応性抜群な自分が複雑な気分だ。
 そうして二日目も終え、本日こいつと出会ってから漸くの三日目だ。時の進みがとても遅く感じるのは気のせいじゃないだろう。事実、俺はここ最近よく眠れていないし、大体ベッドを取られ床で就寝してるのだから徐々に疲労も溜まっていく。冬じゃないから布団が無くても寒くはないけど、夜を長く感じることが増えた。
「つか、なんでお前はそんな普通にしてられんだよ」
 悠々と睡眠をとっている風介の額をぺちんとはたく。当然起きる気配は無い。相変わらず気持ち良さそうに眠っている横で、俺は大学で出された課題を消化するべくパソコンを立ち上げた。今日のような休日でバイトも無い日にやっておかないと、あとで泣きを見ることは重々わかっていた。が、肝心の課題内容は俺の不得意分野である金融工学だ。どうせろくに捗らずすぐに飽きてしまうことも、目に見えている。




3日目  AM 10:48


 一時間が経ちました。案の定、終わりません。
「はあ……」
 深く溜息をついて机に突っ伏す。来週提出だというのに終わる気配が全く無い。教授の話をまともに聞いていなかったおかげで何をどうすればいいのかさっぱりわからないし、そんな中でやる気が起きるわけもなかった。仕方がないから床に放ってあった携帯を取り、ヒロト宛にメールを送る。当然内容は課題が終わらない手伝っての一言だ。あいつならとっくに済ませてあるだろうし、文句を言いつつもなんだかんだ言って手伝ってくれるのだ。こういう時に持つべきものはできる友達だよなと思う。他力本願も時には必要。
『午後ならいいよ。あと緑川も行くかも』
 そう返信が届き、さすが、と思いながら簡潔に了承の返事を送る。これでとりあえず課題の方はなんとかなりそうだ。でも、俺にはもう一つ問題が残っていた。
風介のことだ。
 ヒロトと緑川には俺がこうして『インスタント・ボーイ』と暮らし始めたことを一応伝えてある。二人は驚いたような顔をしたが、あまり信じたようには見えなかった。さっきのメールで『インスタント・ボーイ』について何も触れていないのがその証拠だろう。俺もそれ以上風介については何も話していないし、そもそも二人はこいつの名前すら知らない。
 隠すという選択肢もなくはないが、この先あいつらと友達を続ける限り、『インスタント・ボーイ』と会うのも時間の問題だろう。それなら早めに対面させた方がいいと俺は思っている。その為には風介に聞きたいことが幾つかあり、できればヒロト達が来る前に確認しておきたい。
 携帯を机に置いて風介を見やる。こいつの外見年齢は俺と同じか、もしくは少し低いくらいだ。今は俺の服を借りて着ている。サイズが合わず、手先足先が多少余っていた。風呂に入ったところは見たことがない。水に濡れたら駄目とか、そういうものなんだろうか。それも聞いておいた方がいいかもしれない。
 いろいろと考えながら顔を近付けた。起こす度にこの行為をするのはやっぱり変だと思うけれど、どうしようもない。そう割り切って間近で見ると、綺麗な顔立ちをしているのがよくわかった。どちらかといえば女みたいだ。こうすることにあまり抵抗がないのは、そのせいでもあるんだろう。
「ん……」
 目を開けたまま口付けをすると、風介の長い睫毛がぴくりと一瞬動くのが見えた。これが起動の合図であることに、俺は最近気付いたばかりだ。唇を離すと同時に、目の前の双眸がゆっくりと開いていく。
「…おはよう」
 風介は決まってそう告げる。たとえ真夜中でも、起動した時であれば常に。そして俺も「おはよう」と返し、役目は終わりだ。
「あのさ、起きてすぐで悪いんだけど、お前って人前に出るのは平気なのか?」
 ベッドの上で眠そうに目をこする風介に問いかける。これがまず聞きたかったことだ。ヒロト達に会わせるといっても、そういうのができない設定やら体質やらじゃ意味がない。そう思案しながら待っていると、風介はこっちを向いて頷いた。
「基本的には人間と同じ生活を送れる」
「じゃあ、俺以外にお前が『インスタント・ボーイ』だとバレるのは?」
 俺のこの一言に、風介が少し目を見開いた。
「別に構わないが…そんなことして晴矢こそ平気なのか?」
「物好きな友達がいるんだよ」
 軽く笑って言うと、風介は口を半開きにして無言のままだった。前の記憶があるのなら、多分、そのご主人様とやら以外に会ったことはなかったんだろう。もしかしたら、ヒロトや緑川と会うのは風介にとってかなり良いことなのかもしれない。
「…来るのか?」
「ああ」
「…邪魔なら、私…」
「居ていいから」
 酷く不安そうな声で呟く風介の頭をぽんぽんと叩く。こんな些細なことでほっとしているなんて、風介は人間の醜い面しか見てこなかったんじゃないだろうかと思ってしまう。
「でも何故?まさか、私を見せる為だけではないだろう」
「あー…大学の課題を手伝ってもらいにさ」
 大学の話はあまりしたくなかった。俺が大学生であることは一応伝えてあるが、自分のことを話すのはそんなに得意じゃないから、どこの科だとかは言ったことがない。
「そうか…課題、ちょっと見せてみろ」
 布団から出て、不意に風介がそう言う。その意図はわからない。けれどパソコンの画面を見せると、風介は一発で何についての課題だかを当てた。
「無裁定価格理論か」
「!お前、金融工学できんの?」
 驚いて尋ねると、風介は得意げな顔をして「できるよ」と言った。それから手早くキーを打ち俺が詰まって投げ出した部分を難なく終わらせ、その後もすいすいと止まることなく課題を消化していく。
「すげ…」
 ほぼ無意識にぽつりと呟く。風介は手を止めてこっちを見た。
「これ、わからないのか?」
「…全く」
「まぁそうだろうな。じゃなきゃ私ができるはずがない」
「どういう意味だ?」
「私の仕事は君の不完全な点を補完すること。だから君ができるものは私は不得意だし、君が苦手なものは私が得意であるようにプログラムされているんだ」
 『インスタント・ボーイ』についての話は大抵意味がわからない。価値の話も大概わからなかったが、今回も同じような雰囲気がする。
「食べ物は腹を満たす為にあるだろう?それと同じで、私は君の足りない部分を満たさなきゃならない。ただ価値をもらってるだけじゃあ、割に合わないからね」
 そう言いながら風介は自分の作業に戻っていった。なるほど、今回の話は意外と簡単に理解できたぞ。つまりこれで俺は今後も課題を完璧に終わらすことができるというわけだ。
 でもよくよく考えれば、こいつの言う価値とはあの口付けのことを指しているのだろう。それと引き換えに金融工学の才能なんて、それこそ割に合わない気がするのだが。
「はい、終わり」
「早っ!」
 俺が悩んで悩んで結局できずに放置した時間を返せ。つーか呼んじゃったヒロトとかどうすんだ。
 言いたいことはいろいろあったが、もちろん感謝は尽きない。ヒロトに迷惑もかけないし、来たら来たで適当に過ごせばいいだろう。礼を言おうと画面から視線を逸らし風介の方を見て、そして俺は目を見張った。
(あ、また……)
 右目に黒のバーコード。これを見るのは二回目だった。俺は、風介が人間ではないという意識はあるけれど、こうも人間そっくりの姿をされてはその差なんて大してわからない。普通の人間と暮らしてるも同然だ。でも、この瞬間だけは、どうしても風介を遠く感じる。
 気付いたら、俺は風介の頬に手を添えてこちらを向かせていた。風介が突然のことにきょとんとして瞬きを数回する。俺はすっかりその瞳に見入っていた。
「……晴矢…?」
「…あ、いや、なんでもない。課題、ありがとな」
 はっと我に返って手を離す。すると、目に映っていたバーコードは色を失い、消えていく。
「…眠い」
 パソコンを閉じながら独り言を零す風介。恐らく仕事をしたからエネルギーの消費量が早いとか、そういうことなんだろう。でもヒロトの前で『食べる』行為をしたくなかったから早めに起こしたのに、今寝られたら意味がない。こいつが起きてる状態で俺からしたことは今まで一度もないけれど、そんなことを言ってる場合じゃなく、俺は風介が目を閉じるより先に口を塞いだ。
「……っ」
 俺としてはこれもこいつを生かす為の義務の一環のつもりだったのだが、唇を離すと意外や意外、風介は顔を赤くして後ずさった。まるで初めてこの行為をされた時の俺のようだ。
「な、な、なにを…っ」
「え、だって友達来るのに寝られたら困るから…駄目だったか?」
「……いや…」
「?」
「………目が、覚めている時にされるのは…苦手なんだ…」
 真っ赤に染まった顔を背け、とても小さな声でそう呟く。
「な、何を笑ってるんだ!」
「いやいや、笑ってねえから…っ」
「笑ってるじゃないか!」
「はは、笑ってない笑ってない」
 一番最初にあれだけ平然としてきたくせに、今更そんなことを言うなんて、俺は不覚にも可愛いと思ってしまった。そして風介といえば、むきになって俺の髪を引っ張り始めた。俺は手首を掴んでそれを離そうと試みる。
「痛い痛い痛い引っ張るな!」
「うるさい!貴様なんてそこのベランダから落ちて頭蓋骨粉砕してしまえ!」
「怖えよ!」
 無駄にリアルな表現をする風介に、こいつは存外冗談が通じる性格なんだと内心で驚いた。きっとヒロト達とも反りが合うんじゃないだろうか。
 そんなことを思いながら、俺はやっと風介を受け入れられたような気がした。





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