0日目  AM 00:12
― in a dream ―


この度はインスタント・ボーイをお買い上げ頂き、誠にありがとうございます。
こちらの商品は、全額無料、本体から製造機まで、全てが無料の機械となっております。
説明書を添付しておきますので、用法・要領を守って正しくお使いください。

インスタント・ボーイの魅力は、容姿から中身まで、あなたの好きなように設定できるところにあります。
満足のいくインスタント・ボーイを作り、どうぞ可愛がってあげてください。
なお、交換・返品はできませんので、予めご了承ください。

最後に一つ、交際中のご使用はご遠慮ください。三角関係に発展する恐れがあります。
では、皆様の麗しい日々を心より願っております。




インスタント・ボーイ



0日目  PM 00:38


「っていうのがあるんだってさ」
「へえ」
「あれ、興味無い?」
 興味も何も、そんなの実在するわけないだろ。呆れながらそう言うと、「恋人がいなくて寂しい晴矢にぴったりだと思ったんだけど」とヒロトが冗談めいた口調で笑った。余計なお世話だ。
「付き合ったことは何度もあるのに、本命がいないなんてどうかしてるよ」
「ホモに言われたくねえな」
「緑川は可愛いからいいの」
「…………」
 そういう反応しづらい返答はやめてくれと視線だけ送っても、ヒロトはそれをさらりと交わして席から立った。俺も後を追うようにして食堂を出る。
 ヒロトは頭が良い。顔もまぁ良いんだろう(いつも一緒に居るとよくわからない)。そんな奴の唯一変なところといえば、一歳年下の男を恋人にしているということだ。それに偏見を持ってはいないが、よく付き合えるなと思ったことは何度かある。といっても、相手の緑川は大学に入る前までは俺の近所に住んでいて、ヒロトを含めて三人で幼馴染のようなものだから、今更あいつらが一緒に居ても違和感は感じない。
 ちなみに今、俺は大学に近いアパートを借りて一人暮らしをしている。ヒロトもそんな感じだ。緑川だけが実家通いだけど、なんだかんだ言ってヒロトの家に泊まることが多いから、まぁ詰まるところ幼少時代から変わったことは大して無いというわけだ。
「次なんだっけ」
「金融工学。そろそろ出ないと単位やばいんじゃない?」
「あーそうだ…俺もう落とせないんだ…」
「一、二年で遊びすぎだよ」
 図星を突かれて何も言えなくなる。確かに俺はこの二年間で何人もの女と遊んだけれど、どれも長続きせずすぐに俺が飽きて関係を終わらせた。でも向こうも本気じゃないのがほとんどだったから、そうすることに特に躊躇や迷いは必要なかった。
「晴矢の運命の相手って、誰なんだろうね」
 いつだったかヒロトが言っていた言葉だ。そんなもの、俺が知りたい。




0日目  PM 01:45


 経済学を選んだのは失敗だった。数字の羅列、ややこしい社会の構造、どれを取ってもさっぱりわからない。ていうか俺に向いてない。最初から真剣に勉強してれば、得意になったりもしたのだろうか。
 隣で真面目に教授の話を聞いていたヒロトが、俺が完全に飽きていることに気付いておかしそうに小さく笑う。
「ねえ、『インスタント・ボーイ』についてもうちょっと話してあげようか?」
 声を顰めて実に楽しそうにヒロトは言った。そのネタ好きだなと俺は呆れたが、それでもこの退屈な長話を聞くよりはマシだと思い、耳を傾けることにする。
「なんでも、ある日突然家の中にでっかい箱が置いてあるんだって。やたら機械仕掛けな外見なのに、でもその中身は空っぽで、説明書を見ながら自分で調味料を加えたりするらしいんだ」
「調味料?」
「そう。髪の色とか肌の色とか、性格とか、いろいろ」
「…なんか生々しいな…」
「まぁ自分好みにできると思えばさ」
 いや良くないだろ。大体、家の中に突然現れる箱とか怖すぎる。
「で、お湯を入れて三分待ったら出来上がり」
「えぇ…そんなカップラーメンみたいなノリで人間一人作んのかよ」
「それが趣旨だもん」
 ヒロトはなんでそんな平然としていられるのだろうか。俺なんて想像しただけで背筋が寒くなったというのに。
「つーか空っぽの箱からどうやって出来るんだ?」
「さあ、そこまでは知らない。でもなんだかんだ言って愛嬌湧いてくるらしいね」
「……お前それどこで聞いたんだよ」
「緑川が風丸くんと吹雪くんと話してた」
 やっぱりな。吹雪なんかはそういう都市伝説のような話題を何個も持っていてよく緑川に植え付けているから、今度の話もきっとそんなことだろうと思ってたんだ。俺はその話題の一つ一つを信じたことなど一度もないが、あったらあったで楽しそうだと感じないこともない。まぁ欲しいとは思わないけど。
 『インスタント・ボーイ』とやらを一通り話して満足したのか、ヒロトは視線を前方に戻してシャーペンをかちかちと鳴らした。ああ、俺もこのつまらない時間へと意識を向けなければならない。




0日目  PM 09:23


 初夏を思わせるこの季節は、中途半端な気温とそれから来る湿気がそこら中を漂っていてあまり好きにはなれない。早く夏が来ればいいのにといつも思っている。
耳に当てている電話口から、聞き慣れた女性の声が入る。ヒロトの姉さんだ。
『何か困ったこととか、本当に無いのね?』
「だから平気だって。あんたも心配性だよなぁ…」
 彼女は素っ気ない振りして大概世話焼きだ。大学に入っても一ヶ月に何回かは電話をかけてくる。
 俺は小学校一年生の頃に病気で母親を、五年生の頃に事故で父親を亡くしているから、隣人の基山家にずっと世話になってきた。その中でも一家で最もしっかりしていて時間に余裕のあったヒロトの姉は、南雲家への出入りが一番多かったと思う。小中高の学費はヒロトの父が全て担ってくれていた。あの人は別に構わないと言っているけれど、俺はいつか必ず返そうと心に決めている。
『仕送りしておいたから、明日には届くと思うわ』
「…ああ、わかった」
 親戚でも何でも無いのに、相変わらず一定の間隔で基山家からの仕送りは届き続けている。必要無いと言ったことは何度もあるけれど、向こうは聞く耳を持っていないからそれも諦めた。ヒロトに頼んでも「貰えるものは貰っといた方がいいよ」と流されて終わり。ありがた迷惑、とまではいかないが、貰い続けているこっちの気持ちにもなってほしい。
 俺はありがとうと一言告げて、電話を切った。



 大学帰り、アパートから徒歩数分のコンビニへ寄って本日の夕食を買った。弁当と麦茶の入ったビニール袋をぶら下げ、携帯のメール受信欄をチェックしながらアパートの階段を上る。ちなみに一階の右端には、あまり話したことはないけれど、同じ大学の砂木沼が住んでいる。
 家のドアの前で止まり鍵を開ける。中へ入り、靴を脱ぐ。そうして至って普段と変わらない日常を送っていた、はずだった。突如目に入った光景に自然と携帯が手から滑り落ちる。がしゃん、と嫌な音が鳴った。
まさか、思いもよらないだろう。
「………え、」
 電気を点けたら、部屋の中心に見覚えのない、機械仕掛けの大きな箱が置いてあった、なんてさ。




0日目  PM 09:49


 今、俺の目の前に得体の知れない物体が落ちています。

 『つまり、家に帰ってきたら『インスタント・ボーイ』と思しき箱が置いてあって、中を覗いたら空っぽで、動かそうと思っても重すぎて動かせないし、俺の話通り機械仕掛けで下手に触れられないから困ってる、でいいのかな?』
「まぁ大体は」
『他に何か置いてあったりした?』
 地面へ落下しても無事だった携帯電話を活用し、とりあえず今の状況をヒロトに説明してみた。誰に言っても無駄だろうとは思ったが、そういえばヒロトが昼間に話していたなと思い出したんだ。気が動転しててすぐに思い付かなかった。
 でもあれだけ騒いでいた割に、最初はヒロトも信じようとしなかった。まぁそりゃそうだ。俺だって少し前まで驚きはしたけど、まさか本当に『インスタント・ボーイ』だとは思わなかったさ。じゃあ何が確信を持たせたのかって、
「説明書らしきものが傍にあったんだけどさ……表紙に『この度はインスタント・ボーイをお買い上げ頂き、誠にありがとうございます』って書いてある」
 ということだ。
『え、何、買ったの?』
「んなわけねえだろ。今日初めて知ったんだし」
『あ、そっか』
 ヒロトは半ば楽しんでいるようにも思えた。俺としてはさっさと処理してしまいたいのだが、捨てるにも重くて動かせないから捨てられないなんて、どうすればいいんだ。このまま放置するのも危なすぎる。
「どうしよう、これ」
『えーどうしようって…もう作っちゃえば?』
「はぁ?何出てくるかわかんねえのに出来るわけねえだろ」
『でもずっとそこに置いとくのも嫌でしょ』
「まぁ、そうだけどさ…」
『いいじゃん、何が出てくるかわからないって言っても、もしかしたらすごい相性の良い人間かもしれないし。それに作ってからの方が案外簡単に捨てられるかもよ』
 それは俺も思った。今のこの馬鹿でかい箱の状態より、作ってしまった方が捨てやすいのではないかと。でももし人間が出てきて、それをどう捨てろというのか。なんていうかもう全体的に不気味すぎるだろこれ。
『晴矢?』
「あれ、緑川か?」
『うん。ひさしぶり』
 俺が逡巡している間に、声の主が変わっていた。どうやら今日も緑川はヒロトの家に泊まるらしい。緑川は学年も学部も違うから最近はめっきり合わなくなり、その声が久しく感じられる。
『話は横で聞いてたからほとんどわかったけど…あのさ、買ったってことになってるんだったら、お金とか減ってたりしない?』
「あ。」
 盲点だった。そうだよ、これで財布の中身が無くなってるとかだったらどうするんだ。俺は焦って隅に置き去りにしてあった鞄を掴み、財布を取り出した。小銭の数までは覚えてないから不確かだけれど、札の枚数は減っていないようでとりあえず一息つく。あとは預金してる分か。
「財布を見る限りでは、多分、大丈夫……ん?」
『どうかした?』
「……レシート…?」
 もう一度確認の為に財布を覗いていると、一万円札と千円札に挟まれている白い紙をが目に入った。俺はレシートを財布には入れずに捨てることが多いから、その存在を初めて知った。レシートを保存した覚えなんて微塵も無い。少し緊張しながらそれを抜き出し、目を見開く。
 並べられているのは至って普通のレシートと同じ、合計、お預り、お釣りの文字。その上に書かれた品名は信じたくないことに『インスタント・ボーイ』で、店舗名や電話番号は記載されていなかった。それよりも、右下に羅列した数字に目がいく。
 払ったことになっている金額も、商品の値段も、全て0円とされていた。
 合計¥0、お預り¥0、お釣り¥0。
 無料。
 全てが無料の機械―――
「………っ」
 瞬間、俺の頭の中で何かが目まぐるしく駆け巡った。それが何だかはわからなかった。やっぱり覚えも無い。でも俺はこのレシートを、知っている。どこかで見たことがある。いや、聞いたことがある。恐らくそれは声だけだった。目を瞑っているように真っ暗な世界で、声だけが脳内を流れていた。

 夢?

『晴矢?どうしたの?』
「あっ、いや、なんでもない…」
 暫く沈黙していた俺を、緑川が心配して声をかける。再び例の箱に目を向けると、不思議とさっきよりは気味悪く感じなかった。
「…悪ぃ、ちょっと切るわ」
『え?晴矢、』
 一方的にぶつりと切り、携帯をぱたんと閉じる。捨てる捨てないは別として、何故だか俺はこいつを作った方が良いような気がした。本当に人間が作られて、運命の相手とやらになるのなら喜べばいいし、ハズレだったらヒロト…は緑川がいるから駄目か。砂木沼にでもあげよう。
 俺は恐る恐る、説明書に手を伸ばした。




0日目  PM 10:03


「…さてと」
 厚さ数ミリの説明書を手にした俺は、ベッドの上で胡坐を掻き一度息をついた。何があるかわからないから、一応箱とは距離を置いてある。おもむろに表紙を捲ると、赤字の見出しが存在を誇張していた。


1.お好みの髪色、肌色をお選びください。

「……いきなりそれか…」
 まぁ人間を作るんだからそう来るだろうとは思ってたけど、まさか初っ端からとは。ヒロトの言ってたことと全く一致してるのがまた恐ろしい。
 読み進めると、見出しの下にその方法が書いてあった。『インスタント・ボーイ製造機の裏側にある色素からお選びください』という。そういえばこの製造機を真正面からしか見ていなかった。説明書を持ったままベッドから降りて裏側に回ると、そこにはあったのは、一平方メートルくらいの面積に満遍なく並べられている試験管。あまりの量に息を呑んだ。試験管の一つ一つには、色取り取りの液が入っている。この中から選べというのか。
 続けて『色素を選んだら髪色、肌色の順で製造機に入れてください。虹彩の色はランダムです』と書いてある。
「虹彩は目の色か…?」
 実際髪なんて何色でも良かったのだが、さすがに自分と同じは気が引けるので赤を避け、そのすぐ上にあった青白い色素を選んだ。製造機の蓋を持ち上げ、試験管を傾ける。ぼたぼたと液が落ちていく。こんな大きい箱にこれだけの量でいいのだろうかと少し不安になった。
 肌の色は俺と同じにしておいた。本当にこの通りに出来るとはあまり思っていないけれど。


2.くわえる調味料、香辛料によって性格は多少変化します。

 性格を変化させる調味料って一体何なんだ、と思いながら『本書最終ページに付いているパーツから三種お選びください』と書かれてある通りにぱらぱらとページを捲る。すると、今度は風邪をひいた時に医者から渡されるような粉薬が、番号を振られた形で陳列していた。見たところ一から百まであるが、今度は色も全て同じ灰色で、詳細が書かれているわけでもない。要するに、どれがどの性格だかわからないということだ。上手くいけば良い人間が出来上がるかもしれないし、失敗したらそれこそ捨てたくなるような人間が出来上がるんだろう。ここはヒロトの言っていた『自分好み』にはならないらしい。
 悩んでも仕方がないので適当に三つ選んで紙から剥がす。それを製造機に入れ、準備は完了だ。


3.お湯を注いで三分間お待ちください。

「本当にカップラーメンそのものだな…」
 独り言を呟きつつ、律儀にお湯を沸かす。説明書によれば、お湯は少なくとも多くとも、はたまた一滴でも良いらしい。それによって何が変わるのかはわからなかったが、さすがに一滴だとなんだか異様な物体が出てきそうな予感がしたから、適度にお湯を注ぐことにした。
 カップラーメンだとなみなみになる量でも、この箱の前では底の方に薄く膜を張っただけで終わった。早くも選択した髪色と肌色が溶け込み始めている。その様子を横目に蓋を閉め、携帯を見て三分を計る。
 待っている間に昨晩見た夢のことを思い出そうとした。けれど断片的にしか覚えていなくて、今更あの声が本当にこの『インスタント・ボーイ』に関係するものなのか心配になった。もしかしたらただ単に安売りか何かの夢だったのかもしれない。
 それに後先考えず作ったけど、どんな人間が出来上がるのか全く予想がつかない。『インスタント・ボーイ』というくらいだし、男ではあるんだろう。でも人間の形をした宇宙人とか謎の生命体とかそんなんだったらどうしよう。よく漫画とかに出てくる手乗りサイズの妖精とか…さすがにファンタジーすぎるか。
 壁に寄り掛かってぐだぐだ考えているうちに、もう二分半は経っていた。製造機とは数メートル離れているが、特に騒音が響いたりとかはしていない。もっと壊れかけの洗濯機みたいにがったんごっとん鳴るかと思ったのに、予想外だ。逆に静かすぎるような気もする。
 ていうか今あの中で人間が形成されているのか…。そう考えるとちょっとぞっとした。気を落ち着かせる為に深呼吸をしつつ、携帯のディスプレイを確認する。三分経過より五秒前、壁から背中を離し一歩だけ製造機に近付く。その時だった。
まるでカメラのフラッシュのように、空から落ちる稲妻のように、製造機が一瞬だけかりと光を放った。

『この度はインスタント・ボーイをお買い上げ頂き、誠にありがとうございます』

 声がする。製造機から発せられているそれは、説明書の表紙に書いてあったことと丸っきり同じ文面だ。それは駅で「黄色い線の内側までお下がりください」と言っているような声と似ていた。情報だけを的確に伝えるような、いわば機械のような声色だった。俺は頭が混乱して動けなくなり、製造機はまた何か言い始める。

『INSTANT BOY-10DD』

 イチゼロディディ。それが彼の品番らしい。

『―――起動、スタート』




0日目  PM 10:09


 起動スタート。

 そう言ってから数秒、数分。俺は息を呑んでじっと待った。製造機を凝視し、変な物が出てこないようにと祈りながら。
「…………」
 何も起こらない。
「……は?」
 確かに起動スタートと言った製造機。でも、その後の変化が一向に見られない。
わけがわからない。どうなってるんだ。起動したんじゃないのか?
 製造機からはあの声もしないし、中身が動く気配も無い。蓋を開ける勇気は無かったので、こんこんと軽く箱を叩いてみる。けれども反応無し。つまり、もう三分なんて優に超えているのに、何も起こらないということは。
「嘘かよ…!」
 夢も、ヒロトの話も、説明書も、全て『インスタント・ボーイ』なんてものとは無関係だったのだ。そもそもそういうシステム自体が無いということになる。
 俺は安堵の息を零しながら思わず寝転がった。肩の荷が下りたような、とてつもない脱力感。
「あー良かった……あ、でもそしたらこの箱まじでどうすっかな…」
「動かせないんだろう」
「そうなんだよなー……………ん?」
 なんだ今の声。綺麗な質をしているが、初めて聞いた声だ。初めて、…初めて?
「!?」
 がばっと勢いよく体を起こす。途端に目に入ったのは、
「こんにちは」
 青白い髪に俺と同じ肌の色で、透き通った瑠璃色の瞳を持った、人間。
「う、わ…っ」
 無表情で挨拶を言い放ったそいつは、製造機の蓋を開けて、顔だけ覗かせていた。
「…っ、だ、誰だよお前…!」
「はぁ?失礼な奴だな…君が作ったんだろう、私のこと」
「え…!?」
「だから、私は君の作った『インスタント・ボーイ』だよ」
 な、何言ってるんだこいつ…!確かに俺は『インスタント・ボーイ』を作ったけど…まさか本当に人間が生まれてくるなんて。
 緑川との電話を切った時点で、こうなることを多少は覚悟してたはずだった。でもやっぱり全てを信じていたわけじゃなかったんだ。現に今、こんなに動揺している。
「とりあえず、私を作ってくれたことには感謝している」
 俺の理解が追い付かないまま『インスタント・ボーイ』は勝手に話を進め、箱から片足ずつ出始めた。紺の半ズボンと、白地に水色で模様の描かれたTシャツを腕捲りしている。そして彼は製造機から出て一度俺を見下ろした後、目線を合わせる為に膝立ちになって手をついた。そのまま一歩ずつ俺へと近付く。俺は驚愕のあまり何も言えずにいた。
「でも、作ったからにはちゃんと私を『食べて』くれないと困るんだ」
「……っ」
 顔を近付かせて、鼻先が触れそうになるくらいの至近距離で『インスタント・ボーイ』は笑った。
 どうやらこいつは、機能までもがカップラーメンと同じらしい。

「よろしく、ご主人様?」





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