俺があいつで! | ナノ


「ゲホッ、ゲホッ・・・っく」





パタパタ___、



ガラッ



「晋作!?」



「んぉ?どうした?」



「お前、今・・・」



「ハハ!なんだ?」



「何でもない。これ、もらってきたから、飲んで早く休め。」



「わりぃな!」





パタン



・・・



小五郎の気配が無くなったのを確認してから、もらった薬を流しこむ。



『変われるものなら、変わってやりたい。』



俺がひどく咳き込む時、あいつはそんなこと言いやがる。



これは天命だ。



俺は受け入れてる。





そう思ってた。
















・・・朝か。



薄く日が差し始めた頃、不意に目が覚めた。



何故だろうか。体がとても軽い。



小五郎にもらった薬がよく効いているのかもな。



寝ころんだまま天井に向けて伸びをする。



ん?



なんか腕白いな。



やっぱ具合悪いかも・・・



でもこの軽快で心地のいい感じは何だろうと懐に目をやると













「・・・!!」







俺の胴にぴったりくっついて眠る小娘の姿が。



な、な



「なんじゃこりゃぁあああ!!!」





「む。・・・にゃ。」



こいつ寝ぼけてんのか?



てか俺が寝ぼけてこ、こ、小娘の布団に・・・!?



そ、そうだここ、俺の部屋じゃない。



ここは_____





「おはよう、小五郎さん。」





小五郎の部屋だ。



「って、小五郎!?」





「こごろー?」



ぽかんとする小娘の寝起きの顔は、不覚にも可愛すぎたわけだが、俺はそんなことに喜んでる場合じゃなかった。



落ち着いて、自分の姿を確認する。





白い腕、



細い指、



いつもより薄い胸板、



肩からおちるなめらかな髪、









俺、小五郎になってる!!!







「小五郎さん、朝餉の準備に行きましょう?」





「ん?あ、おう!」



そっか、朝餉は小五郎が・・・って落ち着いてる場合じゃねぇ。



俺は?



俺の本体(?)はどこだ!?





とりあえず、身支度するからと小娘を追い出し、自室へ駆け込む。



しかしそこはもぬけの殻。



どこいったんだ俺・・・



てか、小五郎はどこいった?



この時間なら







と、向かった炊事場で俺は信じられない光景を目にする。



割烹着に身を包み、釜に火をくべながら朝餉の支度をする、



高杉晋作の姿を!





「こ、小五郎!?」



「おや、もしや晋作かい?」



きょとんとしたアホ面(自分で言うのもアレだが)で見上げてきた俺



「そうか、そうか。入れ替わってしまったようだね。」



何を落ち着いて朝餉の支度なんてしてんだコイツは。



「起きたらこの有様で。晋作もかい?」



「ああ。何がどうなってんだか。」



そうだ!



起きたら小娘が一緒に寝てる状況とか、色々ツッコミたいところだが



「小娘がじきに来る。」



「そうか、早く済ませてしまおうと思っていたんだが。小娘さんに何と説明するべきか。」



「笑ってる場合か。とにかく、絶対内密に、だ!小娘にも!ここは俺が変わるから、お前は戻れ。」



「えー。」



「スネんな。料理のひとつやふたつ・・・」



「できるの?」



「出来んな。」







「おはようございます・・・?」

って言ってるそばから、小娘登場。




「珍しいですね、晋作さん。」



「そ、そうだろ〜ちょっと見学させてもらおうかと…」



「そうそう、晋作に料理教えてやろうと思って。オトコ飯、って前に言ってただろお前!」



「お前?」



「あ、いや、君が、ハハハー!」



「なんか、桂さん、今日元気ですね。」



「小五郎!野菜切るから、見ててくれないか?」



「わかった、見てるぞ!」







「わぁ、晋作さんって、お料理、出来るんだ!かっこいいー!」



「そうか?俺の女になりたくなったか?」



(ちょ、小五郎何ノリノリで言ってんのぉお!?)








なんやかんやバタバタと、朝餉の時間は過ぎて


今日は特に予定もないので部屋にいることにした。

小五郎にも、あんま俺のカッコで出歩くなって言っておいたが、果たして守ってくれるか…


さて、何故こんなことになってしまったのか、元には戻れるのだろうか。



「桂さん!何やってんですか!」

「お、おいおい何だぁ!?」

突然やってきた藩士に、ずるずると引きずられてやってきたのは稽古場。

「お待ちしてました、桂さん。よろしくお願いします!」

あ、稽古があったのか。

そうか、俺は予定ないが小五郎はあったんだな。

って、あるなら先に言っとけよな小五郎ー




「…で、桂さんこういう時には…?」

「ん!おぅそういうときはな、こう、こうやって、だぁー!…っと、こんな感じだな!」


あ。

皆がざわざわとし始めて、自分の状況に気づいた

俺、今小五郎だった!


「きょ、今日の桂さんは、勢いがあって素晴らしいですね!是非こちらのも見てください!」

お?案外いけてる?

「よっしゃ、全員みてやる!みんな並べー」














「…晋作のやつ…」

外が騒がしくなってきた。
私としたことが、稽古の予定を忘れていたなんて、やはり動揺は隠せないものなのかな。

しかし皆、楽しそうにやっているな。

私とは大違いだ。

晋作になったとはいえ、私は私のまま。

太陽には、なれないのだな。













「つ、疲れた…っ!」

はしゃぎすぎたな。

小五郎ほどではないが、無事になんとか、稽古らしくできたと思う!

長州の明日を担う藩士の育成は俺達にとって大事な努めだ。

自分を犠牲にその役目を全うする小五郎は、すごいと思う!




あ!俺、やってみたいことがあったんだよな。

小五郎の部屋に戻って、ごそごそと取り出したのは化粧道具。

あいつ、ほんと整った顔してんなー



白粉をはたきながら、まじまじと鏡に映る自分の顔を見つめる。


小娘も、こーゆーのが、いいのかな。



ふと、思い出した、今朝感じたあいつの温もり



小五郎と、あいつは……



っぎゃ!紅はみ出した…っ!ぎゃ!伸びた消えねぇぞ…っ



「…晋作?いるかい?失礼するよ…って、」

「んぎゃー!こっちくんな!」

「晋作、お前…」

「違うぞ。違う、俺は決してソッチじゃなくて…」

「酷い…ふふっ、下手くそだな」

「う…手元がくるって。」

「って、何人の体で遊んでるんだい。」

「だって、やってみたかったんだよ!」




「……。お前ってやつは。近くに行ってもいいかな。」

「おぅ。」

垂れた俺の髪を、簪でまとめ上げ、器用に筆を操っている、俺の姿

自分の顔が近いのに、なんかどきどきする…!


「…できたよ。」

「おー!小五郎、綺麗!」

「褒められても、素直に喜んでいいかわからないよ。」

「いや、すげーよ!」

「あ、ありがとう。さ、もう夕餉だから、早く落としてくるんだよ。」

「はいはい。」











夕餉が済んで、部屋で寝る支度をしていると、小娘がやってきた。


「小五郎さん、行きましょうか。」

「どこに?」

「いいからっ、早く行きましょう。」

小娘に引きずられて藩邸を出る。

こんな時間に、逢い引きか…?

「今日も晋作さん、元気なさそうでしたね。」

「そ、そうだね。」

「毎日、あの神社にお参りしてるけど、神様、私たちのお願いきいてくれないのかな…」



ん?



「私を過去に飛ばすような力があるなら、晋作さんの病気も、良くしてくれるんじゃないかと思ったんだけど…」



小娘と小五郎が、毎晩神社にお参り…?



俺のために?




「まだ、足りないのかなぁ?」

手を引いて先を歩いていた小娘が振り返って尋ねる。



馬鹿、十分すぎるぜ。




小娘の手を強く握り返し、神社への道を進む



神社の階段を登ると、境内に人影が…


「…桂!?」



!!


やばい、新選組…!?


後ろも、


囲まれたか…


「小五郎さん…」



「このあたりに桂らしき人物が毎夜訪れるという話、真だったようだな!」


小娘を後ろに庇いながら、目の前の隊士達と睨み合う


7、8…ってところか?

鞘にじりじりと手を近づけると、小娘がその袖を掴む

「小五郎さん…」

「わかってる。」

こいつは、斬り合いをひどく嫌うからな。


「5つ数えたら、右手の小径から逃げろ。いいな?」
そういいながら、小娘の髪をくしゃくしゃと撫でると、小娘は何か言いたげな表情で見上げてきた。


「いいから、一つ、」



「二つ、」

「三つ、」

「四つ、」

「行けっ!」


小娘が離れたと同時に、近くで構えていた隊士を蹴り飛ばす。



間合いが…


そうか、小五郎の体だったな。


仰け反ったところを狙ってきた2人を鞘に納まったままの刀で凪払う。


「チィッ、やりにくいな!」

小五郎だったら、こんな体格差はものともしないんだろうな。


小娘は、逃げれたんだろうか。

小娘になにかあったら、小五郎に会わせる顔がねぇ。

んでもって小五郎の体で死ぬわけにはいかねーよな!

「ぐぉぉっ!」


よし、あと2人…


っあれ、1人多…っ

「桂ぁぁあ!」


しまった、離れていやがったのか!

キィィィン


構えた刀を弾き飛ばした刀が、俺に振り下ろされるのが、やけにゆっくり見えた。


まだ、俺は…

この体で死ねるワケないだろ!


なぁ、小五郎!



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