夏のようにキツい日差しと
吹き抜ける新緑の香りを運ぶ風
もう冬服も明日で最後
今日が僕の最期の日
お昼休みの中庭
中庭でお弁当を食べるのが、私とカナちゃんの密かな楽しみだった。
案外人もまばらで、内緒の話をするのにぴったり!
まぁ、私達がするのは部活の話か美味しいスイーツの話ばっかりだけど。
さすがに、日陰のこの中庭もだいぶ暑くなってきて、部活の昼練が始まる明日からは教室で食べようって決めてた。
「カナちゃん、この雑誌見てみて!駅前の工事してたお店、ケーキバイキングのお店らしいよ!」
「まじ!?」
「行こうよ〜!今日行こう!明日から部活も大会用メニューで遅くなるしー!」
「え?今日?ゴメン予定あるから。他の子誘いなよ。」
「えー。みんな部活とか用事って言ってたしーてかカナちゃんがいいーよーぴぇーん…」
大げさに泣くフリをして天を仰ぐと
目が合った気がした
屋上から身を乗り出す
彼と
「やばい!」
「え?ちょ、どこいくの!?」
落ちる
あの人
死ぬつもりだよ!
瞬間に、そう感じて、私の体は走り出していた。
ご飯の後で、横っ腹が痛いよー
ってのもお構いなしで、階段を駆け上がる。
屋上ってどっから上がるか知らないんだけど…
勝手に体が動いて、開け放したドアの向こうは青空が広がっていた。
彼は?
間に合わなかった…?
「はぁっ、はぁ沖田君…!」
一瞬だけど、目が合った気がした彼
多分沖田くんだ。
やだやだ、死んじゃやだ!
「沖田君!」
「…はい?」
!
振り返ると、フェンスの向こうに、人影
「ちょ、沖田君なにしてるの!危ないよ!」
「何って、飛び降りようとしてるんですよ。」
「やめなよ!こっち来て、ほら。」
「嫌だ。」
「嫌って…」
「もう、嫌だから、やめるんです。」
「やめるって…そんな簡単に言わないで!」
「僕を引き止めに来てくれたんですか?」
「そうだよ!沖田くんがいなくなったら悲しいよ!」
「…ほんとに?」
「ほんと!」
「…今日はやめます。」
ガシャガシャとフェンスを乗り越えてくる沖田くん。
と、とりあえず、良かった!
「今日、やらなきゃいけないことを見つけたところなんですよ。死んでられないですよね。」
「そうだよーその意気その意気!」
「駅前のケーキバイキング、僕が連れてってあげます。」
「へ?」
「今日、行きたいんですよね?」
「う、うん。」
「じゃぁ、行きましょう。」
さっきまで、顔面蒼白で、死ぬって言ってたのが嘘みたい。
今みたいに柔らかく笑う、その顔を、私は以前に見たことがある。
「バイキングなら、悩まなくても大丈夫ですよ。」
あ、沖田くん
覚えてたんだ。
「やったー。」
「ねぇ、」
「ん?」
「…ありがとう。」
「何言ってんの。」
「でも…」
「ん?」
「何もないです。」
君は、きっと
僕を助けたことを後悔する。
僕は汚くて、弱いから
明日になったら、夏服の君が見たくなって、また死を躊躇うんだ。
優しい君は
僕の意味の無い人生のために
どこまでしてくれるんだろう。
とにかく、僕をこの世界に引き止めた責任は、
取ってよね?
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もっといたい沖田くん