*前夜譚*
カウンターに出された青白く光を放つグラス。
それをぼんやりと眺める。
「…でだなー、んまぁ俺様もそんなによく知ってるわけじゃないしな。常連だが静かに飲んでるし、あいつ。」
よく知らないといいながら、オーナーの口から出る彼女の話は、まるで長年の友人を紹介するように、
そして、なぜだか不思議と、オーナーの話す彼女の姿に惹かれる自分がいた。
僕と同じように彼女を見てるんじゃないか…?
気が気でならない、そんな僕にとどめをさしたのが、オーナーが注いだそのカクテル。
カクテルが色々な意味を持つことは、素人ながらに知ってはいた。
初めて、負けたくないと思った。
仕事ぶりや話口調からスマートさは伝わる、でもあえてそれを隠そうとするようなキャラクターを演じているのか、つかみどころのない自由な人柄で、誰にでも愛されるだろうことは明らかだ。きっと女性にも、人気があるだろう。何より話を聞くのが上手いから。
もしかしたら彼女も…
頭に浮かんだ想像ごと飲み込むかのような勢いでグラスを空にし、オーダーする。
こんな緊張感は久々に味わう。
最初驚いた表情をしたが、すぐにニカッと微笑み、手際よく注文のカクテルを作ってくれる。
カウンターに乗せられたらグラスとコースターの間にカードがはさんであった。
「面白いやつだな!お前には負けるぜ。早いけど、『お前らに』クリスマスプレゼントだ。」
BARで開かれるクリスマスパーティーの案内だった。
オーナーのはからいに感謝しつつ、口に含んだカクテルの新鮮な野菜の酸味に、頭に浮かんだ彼女のはにかんだ笑顔。
いま、僕も同じ顔をしてしまってるのかな。
オーナー、そんなしたり顔で見ないでくれ。
ブラッディーマリー
(私の心は燃えている、断固として勝つ)