1B2A2R4*** | ナノ
*前夜譚*




カウンターに出された青白く光を放つグラス。


それをぼんやりと眺める。

「…でだなー、んまぁ俺様もそんなによく知ってるわけじゃないしな。常連だが静かに飲んでるし、あいつ。」

よく知らないといいながら、オーナーの口から出る彼女の話は、まるで長年の友人を紹介するように、

そして、なぜだか不思議と、オーナーの話す彼女の姿に惹かれる自分がいた。

僕と同じように彼女を見てるんじゃないか…?

気が気でならない、そんな僕にとどめをさしたのが、オーナーが注いだそのカクテル。

カクテルが色々な意味を持つことは、素人ながらに知ってはいた。

初めて、負けたくないと思った。

仕事ぶりや話口調からスマートさは伝わる、でもあえてそれを隠そうとするようなキャラクターを演じているのか、つかみどころのない自由な人柄で、誰にでも愛されるだろうことは明らかだ。きっと女性にも、人気があるだろう。何より話を聞くのが上手いから。

もしかしたら彼女も…

頭に浮かんだ想像ごと飲み込むかのような勢いでグラスを空にし、オーダーする。
こんな緊張感は久々に味わう。

最初驚いた表情をしたが、すぐにニカッと微笑み、手際よく注文のカクテルを作ってくれる。

カウンターに乗せられたらグラスとコースターの間にカードがはさんであった。

「面白いやつだな!お前には負けるぜ。早いけど、『お前らに』クリスマスプレゼントだ。」

BARで開かれるクリスマスパーティーの案内だった。

オーナーのはからいに感謝しつつ、口に含んだカクテルの新鮮な野菜の酸味に、頭に浮かんだ彼女のはにかんだ笑顔。
いま、僕も同じ顔をしてしまってるのかな。
オーナー、そんなしたり顔で見ないでくれ。




ブラッディーマリー
(私の心は燃えている、断固として勝つ)


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