*前夜譚*
醸し出す雰囲気は、冷静沈着、
年の割に落ち着きすぎて騒いで遊べる友人がすくない、
若くして出世して同僚や部下とも折り合いがつかない、
ゆえに週末なのに食事にも飲み会にも誘われず、BARに通う…
というのが、俺様の華麗な洞察力によって構築されたタケチという客のイメージだ。
俺様ほどではないが顔もいい方で、身につけてるものもそれなりの一級品、だが地味だ。
そんなタケチが、あろうことか俺様のお気に入りの常連客にほの字とわかって、にわかにスタッフ陣ではクリスマスに向けてあいつらをくっつけようとする動きが、小五郎中心に湧き上がっていたりする。
小五郎は鈍感ぶって悪のりがすぎるから、ちゃんと俺が見張るとして…
俺は自然に任せればうまくいくと確信しているから、何もしないようにしたいんだが、問題はこいつだ。
「彼女、次いつ来るのかな?」
「さぁなぁー。直接聞けばいいじゃぁないか!」
「それができるならこんなに困らないさ!」
「悪い悪い、怒るなー。」
最近、タケチも口数が増えて明るさも増したのだが、内容は大方あいつの話だった。
俺も客として、大ざっぱにどうかとしか答えられない。
初めて店に来た時のちょっとあどけない様子、一杯サービスするだけで大喜びしたり、模様替えに一番に気付いてくれたのもあいつだったな、新メニューにプロ顔負けの意見をくれたことがあってアレはビビった…あいつの凄いところ、可愛いと思うところは不思議とタケチには言わなかった。
タケチにあれこれ聞かれるうちに、俺は自分の胸がざわつくのに気付いて…
無意識にがむしゃらに振ったシェイカーの中身を、グラスに注いでタケチに差し出す。
ブルームーン
(できない相談)