1B2A2R4* | ナノ
*前夜譚*


普段注文の時以外話しかけてこないやつが、珍しく話したと思ったら…

「ねぇ、あの子、よくくるの?」

「ん!どいつだ!!」

「し、声大きいよ。」

そう言って、そいつの目線の先を辿っていくと…

あぁ、あいつか。


カウンターに腰掛ける会社帰りと思しき若い女が、ひとりで飲んでいる。
と聞けば、独り身の寂しいやつが、自棄酒を貪ってると考える奴も多いだろう。
あいつは、ひとりのくせに表情豊かで、一口飲むごとに驚いたり、一口食べるごとに美味しいと呟いたりする、ヘンテコな奴だ。

面白くて、結構気に入ってる。

「週末はだいたい来るな。」

「ふぅん。」

そう興味なさげに言いながら、グラスに口をつけるも、視線はバッチリあいつの方向。

ふぅん、なるほど。

「んなに、気になるなら、こっちに呼んでやろうか?」

「ばっ、何言ってるんだ!」
「お前の方がデカい声出してんぞ、ほれ。」

あいつがびっくりしてこっち見てんぞ。

「すみません…」

カウンターの端と端で会釈しあう二人。

冷静な奴だと思ってたが、意外といじりがいのある奴みたいだ。

「彼女に何か作ってやってくれないか?」

「ほう?」

思わず口角が上がってしまう…そんな俺の態度に気づいてか、

「さ、さっき静かに飲んでるところを邪魔してしまったからな。」

と、下手くそな言い訳をする。面白い。

「はいよ。何にする?」

「…まかせる。」



この時はまだ、奴の芽生え立ての恋を応援してやろうと思っていた。


俺様は、お客みんなの幸せを願ってるからな!


「あちらのお客様からです。」


驚いたあいつの顔は、不覚にもとても可愛かった。


またまた2人で会釈しまくって…一緒に飲めばいいのに。



アプリコットフィズ
(振り向いて下さい)




「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -