道草


「おい、誰かいないのか?」

います…!


「出迎え無しとは、薩摩への冒涜としか思えんが…」

ごめんなさい!
いまみんな用事があって出られないだけなんです!


「…何やら愛らしい迎えが来ているようなので、よしとしよう。」

へ?


そう言うと大久保さんは、玄関に腰を下ろし、おいでおいでと手招きする。
こんな形でお会いするのは初めてなので何だか緊張するな。
大久保さんは薩摩藩のえらい人でよく長州藩邸にもいらっしゃる方です。

よく会合が開かれてる部屋の前でお昼寝してると、話し声が聞こえてくるんです。内容はチンプンカンプンながら話の受け答えとか聞いてると、とてもかしこい方なんだなーと、猫ながらに感じてます。

お顔を見るのも実は初めてで、緊張しながら近づくと、大久保さんはどこからかえのころぐさを出してきて私の方にむけて揺らしはじめたではありませんか…!
あ、遊んで下さるんですか!



「隠れていたつもりらしいが、いつも障子に映る影で知っていたぞ。」

フリフリ…

ばれてましたか。

フリフリ…

「政局に関心のある猫なんぞ、珍しい。なんなら私が教育してやらんでもない。」

フリフリ…

いや、私はお昼寝しにお邪魔してただけです。

フリフリ…

でも、薩摩藩邸にも行ってみたいなぁ。

フリフリ。


あれ?おわりですか…


……バタバタ


「大久保さん!すまない!馬が暴れてしまってなー総出で止めてた!」

「フン、人間達は随分な出迎えだな!」

「こら、晋作。大久保さん、大変な失礼を。本当に申し訳ありません。」

「なに、怒ってはいない。楽しませてもらったぞ。」

ポフ

私の頭をなでて立ち上がる大久保さん。

「おや、タマが出迎えてくれてたんだね。」

「なかなか聡い猫だ。薩摩藩に逗留したいと鳴いておった。」

「ダメだ!うちのタマはやらんぞ!」

晋作さん、パパみたい…

「小娘にも驚いたが、子猫までとは長州藩邸は飽きないな。」

「お褒めいただき…」

「褒めてはいないが」

「光栄です。さ、部屋へお上がり下さい。」


「うむ。これを…」

大久保さんはさっきまで遊んでいたえのころぐさを桂さんに差し出した。

「これは?」

「なに、小娘への土産だ。」

「華子さんへですか?」

「…違う。ただ一人私を出迎えてくれた小娘へだ。」
















会合の間、華子ちゃんが猫じゃらしで遊んでくれました。

熱中してる間に会合してる部屋の前まで行っちゃって、みんなに笑われちゃいました。





私だけに向けられた、大久保さんの優しさ。


きっと人間のみんなは味わえない、私だけの特権。











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