武市と犬


今日は京都のまちをお散歩してみたいと思います。

みんな用事で藩邸にいないから、退屈になってしまいました。

猫の特権は、なんといっても屋根に登ってゆったりお散歩できることです。
晋作さんもよく屋根とか塀に登ってますが…

綺麗な柳の葉が風に揺れてるのが瓦の端から見えて、思わず身を乗り出したのですが、瓦がずれてしまって私の体は宙に放り出されてしまいました。
でもご安心を。
私は猫です。
猫はどんなとこから落ちても着地できるんです!

…下が地面なら。



ドポン。


川でした…




岸は近いけど、私泳げない…!
もがけば余計に苦しくなる一方です。


もう限界です…華子ちゃん…

ゴツンと堅い衝撃ー…、
岩に頭でもぶつけたのかな。
登れば助か…


ガシッと捕まえられて、あれよあれよという間に岸に上げてくれた逞しい腕。

がっしりした体格のお兄さんが助けてくれたみたいです。

お兄さんがずぶ濡れの赤茶色の髪をぷるぷると振って、まるで犬みたいに水を飛ばしてるのをみて、私も真似してぷるぷる…

濡れてしんなりした髪を結い直して、お兄さんは岸に置いてた荷物を解き、風呂敷で私の体を包んで拭いてくれました。

ちょっと荒っぽいけど、しっかり優しさが伝わってきます。



心地よさに、さっきまでの緊張が解け、次第に意識が遠のいてしまい…
























「文を届けて荷物を預かってこいと命令したが、猫を貰って来いとは命令していない。」

「申し訳ありません。」

「もういい、下がれ。」
「はい。」
「それは置いていけ。」
「しかし先生、」
「いいから。」
「…はい。」

なんだか人の話し声が…

桂さん…?

じゃない…!
きれいな佇まいの男の人が、私をじっと見ていてびっくり…

ふかふかの座布団から転がり落ちた私を支えたのは、さっきと同じがっしりとした大きな手で

「おい、先生のお顔を見て仰け反るとは何事だ!」
「下がれと言ったろう。」
「申し訳ありません。
お前、失礼のないようにな。」


ピシャリと障子が閉まり、取り残された私はお兄さんにじっと見つめられて



「…いい?」

へ?

ふにふにと私の肉球を触るお兄さん…

え、えー!!

水中と同じくらい息ができないよ…!
ムキムキのお兄さん…た、たすけて!

「可愛い。」

にっこり笑うお兄さんは、きれいだけど桂さんとはまた違う笑顔、素直で犬っぽい感じ?
ちょっと安心したけど、やっぱりまだドキドキが止まらない私は、お兄さんを振り切って無理やり障子の隙間をすり抜け部屋を飛び出しました。

すぐそばの縁側に腰掛ける赤茶髪のお兄さん。

お兄さんの手にはキラキラと光る猫の飾りが…

それ…

「お前とよく似ている。」

そんなにきれいじゃないですよ。

「タマちゃん…!?」

華子ちゃんの声…!

華子ちゃんがびっくりした様子で立ってて、私もびっくり。

華子ちゃんと桂さんは、今日ここに用があったらしい。
赤茶髪のお兄さんも肉球ふにふにのお兄さんもみんな知り合いらしくて…どおりでみんないい人なんだと納得です。

こうして私は、華子ちゃんと桂さんに連れられ、無事長州藩邸へ帰ることができました。








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