私は学習する生き物だ。
だから今日はまごの手で、前の席のラギの肩をツンツンしてあげた。
抱き着くともの凄く怒られるばかりか、一日中不機嫌な顔で寄るな触るな近付くなと一喝されてしまうのさ。
したり顔で今か今かと振り向いてくれる瞬間を待ちわびていたら、背後からさっとまごの手を抜き取られた。だれ。


「君って相変わらず発想が柔軟というか面白いよね」


丁度背中が痒かったんだなんだとそのまま奪われてしまい、呆気にとられていると、後ろから盛大な溜め息が聞こえてくる。
さっき体を反転させた訳だから、今の後ろはちょっと前までの正面。
つまり愛しのラギ君ではなかろうか、という訳で再びぐるりと体を元の位置へ戻すと、案の定なにか可哀相なものを見る目で見つめられていた。
どうやら意味もなくただ呼んだだけとはとっくに気づかれているみたいだ。
何の用だとも言わず無言を貫く姿はとても珍しい。
今なら、ちょっと触っても平気かな。
机にぺとりと置かれた腕へ手を伸ばせば、「調子のんな」と反対の手で叩かれた。
地味に痛い。
でも、それよりラギに触れられた嬉しさの方がずっとずっと強い私は相当末期なのかなあ。
前にビラールには笑顔で罵倒された、気がする。
まさかの母国語で話されて意味わかんなかったけど。


「ねえねえ、今度の週末にショッピングしようよ」

「断る、めんどくせー」


間髪入れずにばっさりと切り捨てられた。
なんだよもう。
ラギと違って仕送りしてくれる家庭じゃないのよウチは。
わざとらしくぷうぅと頬を膨らましてやれば、「ブッサイクな顔になってんぞ」と両手で思い切り挟まれた。
自然、息と一緒にツバも吹き出てしまって女としてどうなんだという醜態を晒してしまった気がする。
微妙に凹んだ乙女心に追い討ちをかけるようなラギの「うわ、きたねっ」発言はどうにも看過できない。
けれどもその心ない台詞と裏腹に、心底ばかだなあと楽しげな笑顔を至近距離で頂戴してしまって、正直どうでもよくなってしまった。
呆れ返るのも行き過ぎて突き抜けると愛嬌のようなものが滲み出るらしい。
というのを最近、ユリウスから教えて貰った。
どんな形であれ、ラギが笑ってくれるなら本望だ。
私も嬉しい。
にへらと笑みがこぼれれば、やっぱりラギの機嫌は良いらしく、買い物じゃなくて裏山へデートしようという提案がなされた。
勿論断るはずがなく、喜びを表現したくて机を飛び越え思わず抱き着いてしまえば、上がる悲鳴に変わる感触。


「おい、なにしやがる」


早く退けと言わんばかりにペシペシ脇腹を叩くしっぽすら愛おしい。
かぶりついても良いかしら、無性にお腹が空いてきた。
それがうっかり顔にも表れていたのか抵抗が一層強くなる。
それさえ可愛らしいからもうどうしたら。
ラギってば罪な男。


「ああもう、今夜一緒に寝ようか」
「ふざけんなあああ!!」


男の子として見られたいから変身したくない、ひいては寄るな触るな近付くなという結論にラギが至ったのだということを、私はまだ知らない。
そしてそれが本末転倒な考えだとラギが漸く気付くのだってまだまだ先のお話だ。



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