雪だ。
雪が降ってる。

迷うことなく隣の家へ駆け込んだ。
一面真っ白な世界に自分の足跡を残すのはなんだか楽しい。
この気持ちを一緒に味わって貰いたくて、有無を言わさずリオンを外へと引っ張った。

二人じゃ雪合戦もつまらないし、ソリで滑るほど積もってないしで雪だるまを作ることにする。
ちなみに私の独断で決定した。
だって意見を聞いたら家で暖まりたいとか言うだろうから。

ぶつぶつ言いながらも、手袋を貸してくれたりせっせと水を蒔いてくれたりと手伝ってくれるリオンは、内心楽しんでいると思われた。
だって妙に険しい目つきが今日ばかりは穏やかで、何より帰ろうとしないのがその証拠。
リオンは本当に嫌な時、本気で帰る。
無言で帰る。
だから今は楽しんでいるのだと自己完結し、なんだか嬉しくなった訳です。

しばらくすると雪玉も大きくなって、遂には簡単に転がせなくなった。
そこで掛け声とともに突っ込む。
助走をつければ非力さもカバーできると思ったからだ。
うーん、私って天才かも?


「おりゃー!」


…動かない。
どころか、プギャッとまぬけな悲鳴を漏らしてしまった。
強打した顔面が痛い。
手首も変な方向に曲がった。

珍しく声を上げて笑うリオンに、ちょっとだけ心があったかくなったけど、慌てて手首を雪に突っ込んだ私を見てますます笑いが止まらないのはカチンときた。
じゃあ今度はリオンがやりなよと言えば、ふんと鼻を鳴らしてポジションに。
軽々とではないけれど、確かに雪玉は動いている。
なんやかんやでやっぱりリオンは男の子だ。

いやいや、あれだけ笑った後に気取られても格好良いなんて思わないけどね!本当にね!


そのまま庭をぐるぐる回って、もう一つ小振りな雪玉も作って。
葉っぱや松毬で顔を形成し、ちょっぴり歪んだ笑顔の雪だるまができた。
しかし残念なことに、達成感よりも疲労感の方が強い。
全身がくたくたで、手がじんじんする。
溶けた雪が手袋まで浸透して、指先の感覚がおかしなことになっていた。
熱いのか冷たいのかも曖昧だ。
確実に、後者だろうとは思うけれども。


「ほら、貸してみろ」


突然の呟きの意味が分からず、じっとリオンを見つめれば、苛々と爪先で雪を掘り出した。


「手だ、手。」


早くと急かされ素直に差し出す。
びしょ濡れの手袋は迷うことなく奪い取られ、同じように外気に晒された剥き出しの掌が、私のそれをやんわりと包む。



「もう気が済んだだろう。」


呆れたように吐かれた息が二人の手を気休め程度に暖める。
瞬時に熱を奪われるのは、季節柄仕方がなかった。


「さっさと帰るぞ」


外に出た時とは逆に、リオンが私の手を強く引っ張って、薄く雪の掛かった二人分の足跡を辿る。
付け足すように何気なく呟かれたリオンの本音は、今だ降り続く雪と共に足元へと落ちていった。
耳が痛くなる程しんと静かなこの場所で、それは、煩い位に私の鼓膜を震わせた。






人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -