超のつくほど料理が苦手な友人から託された、手乗りサイズの四角い箱。 赤い包装紙に細い桃色の紐を束ねたリボンでいかにもなラッピングは、狙い通りの可愛らしさと言えるだろう。 中身はこの季節特有の甘ったるい代物で、手作りらしいそれを渡せば本日の任務は終了だ。 あまりにも簡単なお願いに、ファミレスのデザートを奢ってもらうのは過ぎた対価のような気さえした。 しかし、ここにきて一つの問題が浮上する。 私の愛すべき友人は、超がつくほど料理が苦手なのだ。 胃袋の心配と、それから単なる興味本位で言葉を紡ぐ。 「手作りチョコと市販のチョコ、どっちの方が嬉しい?」 「あー…どれも食っちまえば一緒って言いたいとこだけどよォ、まあ、市販のがハズレないだろ」 ずいっと身を乗り出し、「なに、くれんの?」と右手を差し出される。 それをぺしりと叩いて期待に満ちた姿を鼻で笑ってやった。 どうやら今年は、まだ誰からも貰っていないらしい。 がっくり肩を落とすスパーダからは可哀相な愛嬌が滲み出ている。 「喜べ、チョコである」 茶化して仰々しく授けてやれば、スパーダはうおぉ!と雄叫び一つ上げて恭しく受け取った。 視線は顔ごと箱に釘付けで、ぶるぶる震える唇に異常な速さの瞬き、少し肩が上がって今にもヒャッホウと踊り出しそうだ。 予想以上に喜んでいるその姿から、鞄に忍ばせていた市販のチョコを渡す機会を失った。 あまりにも満足そうなので蛇足になりかねないと思った。 何より、胸の奥の方で燻っていた気持ちが完全に冷めてしまったのだ。 しっかりお返ししてあげなさいよとにっこり微笑めば、僅かに首を傾げられる。 「…これ、お前からじゃねェの?」 瞬時に頷き肯定の意を示せば、大袈裟に驚かれた。 憮然と停止していたのは呼吸にして二つか三つほど。 ゆっくり瞬きをした後、信じられないと詰め寄られる。 「他のヤツじゃなくてお前からのが欲しいンだよ!」 固く握られた拳に気持ち悪いくらいの本気を見た気がした。 真っ直ぐ見つめながら熱く宣言するスパーダは、申し訳ないが物凄く恥ずかしい。 「知るかばか!」 とりあえず顔面目掛けて渾身のストレートをお見舞いしてやった。 ぐしゃり、嫌な音を立てて投げつけた箱が惨めに潰れた。 駆け出せ、青春! |