タオル忘れてる。
ボタン掛け違えてる。
手に持ったコップから今にも水が零れそう。
(お喋りに夢中なのは結構ですが)
 
 
「ルーク様、」
 
「あーあーはいはい、分かってるっつーの!
…うぜーなぁ、ったく。」
 
 
 
注意しようと口を開けば、決まって貴方はこう返す。
あの日々が昨日ことのように思い起こされるのは、あの頃から貴方に知らず好意を寄せていたからなのでしょうか。
 
実際、そんなに月日が経っていないというのもありますが、貴方の変わりようには唯々驚くばかりです。
 
 
 
 
 
「呼び名!!」
 
「ルーク様、どうなさいましたか。」
 
「その洗濯物貸せ…じゃなくて、手伝うよ。」
 
「そんな滅相もない!
ルーク様のお手を煩わせる訳には参りません。
お気持ちだけ有り難く頂戴します。」
 
「でも、やっぱりそんなに沢山は危ないと思う。
怪我してからじゃ遅いし…」
 
 
そうは言われましても、仕えるべき主君に手伝わせたとあっては私が叱られてしまいます。
とも言えず、すっかり困り果てていると最近ではお決まりとなった一言が飛び出す。
 
 
「オレがやりたいんだ。」
 
 
こう言われてしまうとNOとは言えない職業柄。
有難う御座います、小さく呟けば曖昧に微笑んでまたお決まりの一言。
 
「お礼なんていらないよ。
寧ろ今まで有難うって、オレが言わなきゃなんだからさ。」
 
 
 
 
嗚呼、いつから貴方はそんな大人の表情をするようになったのですか。
一体全体、誰のお陰なのでしょう。
 
変わっていく貴方のお姿をずっと隣で見つめていたかった。
顔も知らない誰かに私はなりたかった。
 
 
旅からお帰りになった貴方はまるで私の知らないルーク・フォン・ファブレで、優しさが嬉しい半面、悲しいと言いますか淋しいと思ってしまう私は嫌な女ですね。
 
一歩前を行く白い背中に溜息を吐きつければ、図ったようにその歩みが突然停止した。
ぎこちなく振り返った貴方は真剣そのもの。
そんな顔も出来るようになったのですね。
酷く胸が塞がる。
 
 
 
「あのっ、今更なんだけどオレ…呼び名!に迷惑ばっか掛けてたっつーか、そんなはずないのに世話してくれるのを当たり前だと決めつけてたっつーか……
本当にごめんな、今まで有難う。」
 
 
どうして、そんな。
これが最期みたいに。
 
 
 
「それで、お前はオレのこと我が儘坊ちゃんだって嫌ってるかもしんねーけど、オレ…変わるから。
いつか呼び名!に頼って貰えるような男になるから、だから、」
 
「ルーク様。」
 
「は、はい!」
 
 
 
そんなに鈍感でもないですので、ルーク様が何をおっしゃりたいのか予想がついてしまいました。
まるで白昼夢かと疑ってしまいます、運を全て使い果たしてしまったのではないでしょうか。
 
本当に、本当に嬉しい。
 
でも、でもね。
私じゃ駄目なんです。
 
 
 
 
look after ー世話をするー
(だって私は飯炊き女)


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