どうしよう、勢いで着たは良いものの。
 
明らかに変だ。
似合わない。
無理がある。
 
 
どうしてもう少しだけでもマシな姿で生まれてこられなかったのだろうか。
よくお似合いですよと笑顔を貼付けた隣の女性が心底憎らしく、社交辞令にこんなにも辱められるとは思わなかった。
余りに堪えられなくて着替えようと踵を返したその瞬間、世界で一番聞きたくない声が背中に掛かる。
神様は余程私が嫌いらしい。
 
 
「やっぱり、飾ってあったのを見るのと着るのとじゃ全然違う、ね。」
 
 
名前を呼ばれたからには無視する訳にもいかず渋々振り返る。
心中は変わらず、穴があったら入りたい。
むしろそのまま埋めてくれ。
 
そんな思いを知ってか知らずか、いや鈍感な彼が知る筈はないだろうけれど、兎に角ずんずん無言で迫ってくるのは嫌に迫力があった。
思わず逃げ出したい衝動に襲われるものの、慣れない衣装は動くことさえ困難で。
 
なんなの、全く。
早く脱いでしまいたい。
 
 
 
「本当に、着るまで分からないね。」
 
 
貴方は重度の近眼でしたっけ、という距離まで近寄って漸くユリウスは立ち止まった。
と同時に嫌な予感しかしない。
だって瞳が尋常じゃない程輝いている。
待ってと口を開く前に、彼の発進準備は完了してしまった。
ヒュッと素早く吸い込まれた空気が音を発てた。
 
 
 
「なんでそんなに可愛いの、意味が分からない!君のために作られたとしか思えないんだけど。もうここでこれと出会えたのは運命だったんだよ、うん。もうこのまま式場も抑えよう、そうしよう。」
 
「ちょ、お金!お金ないでしょ!」
 
「ああ本当だ、俺ってなんて馬鹿なんだろう。でもそれは絶対君が着るべきだし、もちろん他の誰かに買われちゃうのは以っての外で、つまりどうしても買いたいんだけどどうしよう。」
 
「ほら、ふらっと入っただけなんだからしょうがないって。また今度来ようよ。」
 
「…ふらっと?そうださっき広場にノエルがいたよね、俺お金借りてくる!」
 
「待ってユリウス、早まらないで!」
 
 
止めようと駆け寄りたかったというのに、引きずる程に長い丈と白いレース共がそれを困難なものとする。
見てる分には可愛いのになんなの!
 
本日二度目の後悔は、しかし幸せな悩み事なのかもしれない。
 
 



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